「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」は、グルグル回るめまいの原因で最も多い病気です。頭の位置を変えたときに急にめまいがして、吐き気や嘔吐を伴います。朝起きて体を起こそうとしたら、急に目が回り出した、などはよくある例です。回転性のめまいは数分~数時間続くことがありますが、その名の通り、良性の発作的めまいなので、命の危険や後遺症はありません。
発症原因は、平衡感覚を司る部分(前庭)にある、炭酸カルシウムの小さな粒「耳石(じせき)」が半規管に剥がれ落ちることによる「リンパ液の流動」です。耳石が剥がれ落ちる要因には、長時間同じ横向きの姿勢を取る、頭部外傷による衝撃のほか、突発性難聴・メニエール病の後遺症など様々です。

良性発作性頭位めまい症では、数日~2週間程度で症状が自然に軽快していくことがほとんどですが、一方で強く症状が出るケース、1か月以上長引くケース、別の原因でめまいが起こっているケースもあるため、気になる症状が続くときは耳鼻咽喉科を受診しましょう。
めまいでお困りの方はお気軽にご相談ください。

良性発作性頭位めまい症とは?

「良性発作性頭位めまい症」と言っても、聞いたことがない方がほとんどでしょう。
メニエール病と比べて知名度はありませんが、回転性のめまいの原因の多くは、この「良性発作性頭位めまい症」です。

良性発作性頭位めまい症の疫学

めまいで病院を受診した患者さんの約60%は「耳の疾患」が原因であり、そのうち良性発作性頭位めまい症の占める割合は約30~50%と最多です。
日本の有病率数は10万人あたり約11人と報告されています。男女比は1:2~1:3と女性に多く、特に60代以上の高齢者の発症が多かったのですが、近年は比較的若い女性の発症も増えています*1
*1(参考)令和元年国民生活基礎調査 健康 全国編 86|厚生労働省
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003442361

良性発作性頭位めまい症が起こりやすい人

  • 手術後など長時間寝たきりになった
  • デスクワーク・手作業など、長時間同じ姿勢で頭をあまり動かさないことが多い
  • 閉経後の女性
  • 頭部への強い衝撃が加わった後
  • メニエール病・突発性難聴の後遺症  など

良性発作性頭位めまい症の原因

良性発作性頭位めまい症の原因は、内耳の中にある炭酸カルシウムの粒「耳石」の落下によってリンパ液の流動が起こることです。

平衡感覚の感知

耳の一番奥「内耳(ないじ)」には、聞こえのセンサー「蝸牛(かぎゅう)」とバランスセンサー「前庭(ぜんてい)・三半規管(さんはんきかん)」があります。
前庭は、カタツムリのような部分(かたつむり管)と三半規管の中間部分に位置する部分で、中には重力・体の方向を感知する「耳石器(じせきき)」があります。また、三半規管は3つの半規管の総称であり、内部はリンパ液によって満たされています。

通常、頭部を動かすと、半規管内のリンパ液の流れが起こり、傾き・直線運動であれば「耳石器」、回転運動なら三半規管内の神経(クプラ)で感知して、脳に情報を送ることで「頭部が動いた」と理解しています。
しかし、耳石が落ちることで異常なリンパの流れが起きたりクプラが刺激されたりすると、「回転した」という情報が誤って脳に伝わってしまうため、回転性のめまいが起こります。

(図)三半規管・クプラ・耳石器のイメージ

良性発作性頭位めまい症のタイプ

良性発作性頭位めまい症には、大きく分けて2種類のタイプがあります。

  • 半規管結石型
    頭の向きを変えることで剥がれ落ちた耳石が半規管内を移動するタイプ。耳石が半規管内を移動することで異常なリンパ液の流れを生み、めまい症状が現れます。耳石の動きとリンパ液の流動は連動しているので、頭の位置を変えた後、数十秒程度でめまいは落ち着きます。
  • クプラ結石型
    リンパ液の流れを感知する神経「クプラ」に耳石が付着するタイプ。半規管結石型と比べて、めまいの持続時間が2分以上と長いです。

耳石が剥がれ落ちる要因

今のところ、耳石が剥がれ落ちる理由ははっきりしていませんが、頭部外傷・内耳のウイルス感染・骨粗しょう症・運動不足・長時間の側臥位(そくがい:横向きに寝た姿勢)などが要因として考えられています。

良性発作性頭位めまい症の症状

症状には、次のような特徴があります。

  • 特定の頭の向きにすると、めまいが起こる
    朝起きたとき、寝るとき、上を向いたとき、下を向いたとき、ねがえりをうったときなど、頭を動かす動作をしたときに「めまい」が起こりやすいです。
  • 回転性のめまいが、数分~数時間続く
    周囲がグルグル回る・揺れるような「めまい」が起こると、しばらく続きます。
  • 難聴(特に低音)・耳鳴り・耳閉感などの聴覚症状は起こらない
    聞こえを司る「蝸牛」には障害は起こらないので、聴覚症状はありません。
  • 頭痛、構音障害(しゃべりにくい・ろれつが回らないなど)、声がれ、顔や手足の痺れ・麻痺などは起こらない
    脳神経や脳に障害は起こらないので、神経症状は現れません。もしこのような神経症状が発現していたら、脳神経外科をまず受診してください。
  • 発作を繰り返すと、次第にめまいが軽減していく
    頭位変換(頭の向きを変えること)で繰り返し「めまい」は起こりますが、何度かめまい発作を繰り返すと、次第にめまいは軽減していきます。

良性発作性頭位めまい症と似ている病気

良性発作性頭位めまい症の症状に似ている病気として、次のようなものがあります。

  • メニエール病
    良性発作性頭位めまい症と似ている病気として有名です。良性発作性頭位めまい症との違いは「聴覚症状の有無」です。良性発作性頭位めまい症は、聴力低下・耳鳴り・耳閉感(耳が詰まった感じ)などの聴覚症状は起こりません。また、頭の位置によってめまいが引き起こされる良性発作性頭位めまい症とは異なり、メニエール病では頭の位置に関係なく、めまいが起こります。
  • 前庭神経炎(ぜんていしんけいえん)
    突然、非常に強い回転性のめまいと吐き気・嘔吐が起こる病気で、良性発作性頭位めまい症と同様に聴覚症状は起こりません。良性発作性頭位めまい症では、しばらく安静にしていれば、めまい・吐き気が軽減していきますが、前庭神経炎では安静にしていても、なかなか治らず、数日間めまい・吐き気が続きます。命に危険のある病気ではありませんが、めまいが強すぎて救急車で搬送され、入院治療をされる場合もあります。

良性発作性頭位めまい症の検査・診断

めまいが現れる病気には様々あるため、良性発作性頭位めまい症はいくつか検査をして、他の病気ではないことを確認した後に診断できる病気です。

良性発作性頭位めまい症の検査

問診や聴力検査で聞こえの状態を調べます。
また、良性発作性頭位めまい症には同じような症状を起こす他の病気(突発性難聴・聴神経腫瘍・前庭神経炎など)との鑑別も重要なため、必要に応じて様々な検査を行います。

  • 問診・視診
    自覚症状のほか、発症タイミング(どんな時に起こるか)・既往歴(糖尿病・高血圧など)・お薬の服用歴について、詳しくお伺いします。
  • 眼振検査
    めまいがあると、無自覚な眼球の震え「眼振(がんしん)」が現れます。特殊な検査用メガネ(フレンツェル眼鏡)をかけて、頭を動かしてもらい、めまいの症状・眼振所見を確認します。
  • 聴力検査
    良性発作性頭位めまい症では、聴力低下はみられませんが、メニエール病・突発性難聴と鑑別するために、「聴力検査」を行うことがあります。
  • MRI検査
    めまいの原因に脳・神経の問題が疑われる場合には、MRI検査を行います。
    ※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。

良性発作性頭位めまい症の診断

当院では、日本めまい平衡医学会の「良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン」に則っています。発生状況や検査で良性発作性頭位めまい症の所見がみられ、中枢性疾患など他の病気を除外できる場合に、診断します。

良性発作性頭位めまい症の治療

良性発作性頭位めまい症では、耳石の吸収により自然に治癒していくケースもよくみられます。しかし、自然治癒までの期間は数日~数週間と、個人差があります。
当院では、お薬による不快症状の対症療法と並行して、耳石を早く元の位置に戻すための「頭位治療」など、症状をみながら行っていきます。

頭位治療(浮遊耳石置換法)

頭位治療は「浮遊耳石置換法」と呼ばれる、医師が患者さんの頭や体を動かして、耳石を元の位置に戻す「めまい体操」を行います。めまい症のタイプによって動かし方は異なり、半規管結石型では、「Epley法(エプリー法)」、クプラ結石型では「Lempert法(レンパート法)」などがあります。

薬物療法

めまい・吐き気には、抗めまい薬・吐き止め・抗不安薬などお薬による症状緩和を行います。

また、当院では良性発作性頭位めまい症治療の選択肢のひとつとして「漢方治療」を行っています。めまい軽減・再発予防には苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、真武湯(しんぶとう)、五苓散(ごれいさん)などを処方しています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている「医療用漢方製剤」なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

良性発作性頭位めまい症は、病院に行かないとダメですか?

「めまい」を引き起こす原因は様々で、中にはすぐに治療が必要な「めまい」もあります。ご自身で原因を判別するのは難しいため、医療機関できちんと検査を受け、めまいの原因を調べて対処することが望ましいです。
なお、めまいは大きく2つに分けられます。

  • 末梢性めまい
    原因が内耳の問題のめまいです。疾患によって、難聴・耳鳴りなどの聴覚症状を伴うことがありますが、耳以外の神経症状(顔や体の麻痺・運動障害など)は起こりません。メニエール病・突発性難聴・良性発作性頭位めまい症などが含まれます。
  • 中枢性めまい
    原因が脳・神経の疾患のめまいです。めまい以外に顔・体の麻痺・運動障害・しゃべりにくいなどの神経症状が現れます。脳梗塞・脳出血・脳腫瘍などが含まれます。ほかに、自律神経の乱れ・更年期障害・気圧の変化などでもめまいが現れることがあります。

良性発作性頭位めまい症を予防するには、どうすれば良いでしょうか?

良性発作性頭位めまい症では、約10%~30%の方に再発がみられます。
良性発作性頭位めまい症では、次の5つポイントに気を付けると良いでしょう。

  • 長時間横向きの姿勢を取らない
    横になってテレビを見る、横向きに寝ると、下側の半規管に耳石が溜まりやすくなります。
  • 適度に運動を行う
    運動不足による新陳代謝の低下を防ぐために適度な運動を行いましょう。
    頭や首へのストレッチもオススメです。
  • 骨粗しょう症を予防する
    骨粗しょう症によるカルシウム代謝異常を防ぐため、1日3食、規則正しく栄養バランスの良い食事を摂るようにしましょう。
  • 頭部外傷を避ける
    頭部外傷による内耳への衝撃は耳石が剥がれ落ちる原因となります。
  • 寝返り運動を行う
    寝る前に布団の上で行う簡単な運動で、耳石が一か所に溜まりにくくなり、めまいの再発を防ぎます。まず左向きで10秒間、ゆっくりあおむけになって10秒間、右向きで10秒間、あおむけに戻って10秒間数えます。これを1日1~5回くらい行います。

院長からのひとこと

良性発作性頭位めまいは、めまいの代表的な病気の1つで、ある一定の方向に頭を傾けると眩暈が生じます。
少しずつ軽快していきますが、「ぐるぐると目が回る→頭を傾けるとフワっとする→フワッとする回数が少なくなる」といった感じで、徐々に良くなっていきます。
治るまでの日数には個人差があります。あせらずに治療していきましょう。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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