メニエール病と言えば、めまいが起こる病気として有名です。急なめまいと共に吐き気・嘔吐・耳鳴り・難聴・耳の閉塞感(詰まった感じ)が起こります。めまいは周りがグルグルと動いているような回転性で、数分~数時間続きます。また、聞こえの悪さ(難聴)はめまい発症前後に起こり、めまいの改善と共に軽減していきます。
発症原因は耳の奥にある「内耳のむくみ(内リンパ水腫)」とされていますが、このむくみが起こる理由は今のところ明らかになっていません。とはいえ、ストレス・睡眠不足などがメニエール病の発症の引き金になりやすく、まじめで几帳面な方の発症が多い傾向があります。
なお、「めまい」が起こる病気は様々ありますが、メニエール病ではめまいと共に手足の痺れ・麻痺(まひ)・意識の薄れなどを伴わないので、生命にかかわるケースはほとんどありません。
ただし、メニエール病は症状の再発を繰り返す特徴があります。再発の反復により難聴が悪化しやすいため、めまい・聴覚症状が現れた場合にはすみやかに治療を開始して再発・進行を予防することが大切です。めまい・聴覚症状でお困りの方は、お気軽にご来院ください。

メニエール病とは?

「めまい=メニエール病」のイメージをお持ちの方は多いかもしれませんが、メニエール病は「耳の病気」です。難聴・耳閉感・聴覚過敏など「耳の聞こえの症状」に「めまい」が伴います。なお、めまいには生命の危険性はありません。

メニエール病の疫学

めまいが起こる病気には様々ありますが、メニエール病である割合は約10~20%と皆さんが思われている程多くはありません。とはいえ、メニエール病の患者数は日本のみならず世界的にも増加傾向であり、厚労省調査研究班(2011年)によれば、日本の推定患者数は約4.5万人~6万人と報告されています*1。また、調査開始時の1970年代では男性の罹患が多かったのですが、女性の社会進出に伴い、1980年代以降は女性の方が多くなっています。メニエール病は若い方の発症が多く、平均発症年齢は30代~50代ですが、近年では高齢者の発症も増えています。
*1(参考)メニエール病診療最近の動向
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/9/115_866/_pdf

メニエール病になりやすい人

メニエール病を発症した患者さんを見ると、責任感が強くまじめで几帳面な方が多いとされています。また、肉体的過労・睡眠不足・精神的ストレスがある方に発症しやすい傾向があります。

メニエール病とは?

メニエール病の根本原因は、内耳にリンパ液が溜まりむくんだ状態となる「内リンパ水腫」です。「内耳(ないじ)」は、聴覚を司る「蝸牛(かぎゅう)」・平衡感覚を司る「三半規管(さんはんきかん)」などから構成されている耳の一番奥の部分です。通常、内耳の中は一定量の「リンパ液」で保たれています。しかし、リンパ液が過剰に増えて内耳がむくんでしまうと、蝸牛を圧迫して難聴・耳鳴りなどの聴覚症状が現れ、さらに進行して三半規管が圧迫されると、めまいも伴うようになります。今のところ、内リンパ水腫を引き起こす原因は明らかになっていませんが、内耳のむくみを引き起こす要因として、過労・睡眠不足・ストレス・悪天候(気圧の変化)などがあると考えられています。

(図)耳の構造

メニエール病の症状

メニエール病では「めまい」と「聴覚症状」がセットで現れます。ただし、症状の現れ方には個人差があるため、全ての症状が出ないケースもあります。

メニエール病の特徴

症状には、次のような特徴があります。

  • 回転性のめまいが、数十分~数時間続く
    周囲がグルグル回るような「めまい」が起こると、しばらく続きます。
  • 難聴(特に低音)・耳鳴り・耳閉感などの聴覚症状が片耳だけに現れる
    聴覚症状は数日~数週間で落ち着きますが、何度も発作を繰り返すうちに進行して、約10%で両耳に現れることがあります。
  • 聴覚症状はめまいと連動する
    聞こえはめまい発作の前後に悪くなり、めまいが改善してくると聞こえも良くなる傾向があります。
  • 病気の長期化で難聴が悪化しやすい
    発症後、次第にめまい発作の回数は少なくなりますが、難聴は変動しながら悪くなります。

メニエール病と似ている病気

メニエール病の症状に似ている病気として、次のようなものがあります。

  • 突発性難聴
    メニエール病と似ている病気として有名です。どちらもストレス・疲労などが発症のきっかけとなりますが、メニエール病との違いは「症状の反復」です。メニエール病は難聴やめまいなどの発作を繰り返しますが、突発性難聴では1度しか起こりません。
  • 聴神経腫瘍
    「聴神経」にできる脳腫瘍の一種で、多くは良性ですが、時間をかけて徐々に大きくなります。MRI検査によって診断可能です。メニエール病では難聴の後すぐに現れる「めまい」が、聴神経腫瘍では進行するまでは現れません。また、腫瘍が大きくなると、顔面麻痺・頭痛・二重に物が見える・まっすぐ歩けないなど、メニエール病ではありえない症状が現れる点も異なります。
  • 前庭神経炎(ぜんていしんけいえん)
    突然、非常に強い回転性のめまいと吐き気・嘔吐が起こる病気で、メニエール病同様に安静にしていても、なかなか治まりません。前庭へのウイルス感染が原因と考えられています。命に危険のある病気ではありませんが、めまいが強烈すぎて救急車で搬送され、入院治療が必要な場合もあります。
    メニエール病との違いは、「難聴・耳鳴りなどの耳症状が起こらないこと」です。

メニエール病の検査・診断

めまいや聴力低下などが現れる病気には様々あるため、メニエール病は何度か検査をして他の病気との鑑別をした後に診断できる病気です。

メニエール病の検査

問診や聴力検査で聞こえの状態を調べます。
また、メニエール病には同じような症状を起こす他の病気(突発性難聴・聴神経腫瘍・前庭神経炎など)との鑑別も重要なため様々な検査を行います。

  • 問診・視診
    メニエール病では「症状の繰り返し」が診断ポイントとなるため、問診が大切です。
    自覚症状のほか、発症時期・既往歴(糖尿病・高血圧など)・お薬の服用歴・耳の手術歴・ご職業・ストレス具合について詳しくお伺いします。
    また、難聴の原因となる疾患を除外するため、耳鏡・耳内視鏡(ファイバー)で外耳・中耳(鼓膜)の状態を確認します。
  • 純音聴力検査
    メニエール病は、特に低い音が聞こえにくくなる「低音障害型難聴」を引き起こします。(症状が進行していると、低い音に限らず聴力低下が起きることもあります)
    この難聴を診断するためには、どのくらい小さな音が聞こえるか、7つの高さの純音を使って「気導聴力検査」「骨導聴力検査」の2種類から聞こえの程度を確認する必要があります。検査時間は約15分です。

    • 気導聴力
      音の伝達経路に障害があるかどうかを確認します。
    • 骨導聴力
      内耳(蝸牛)に刺激を与えて音を聞くことで、内耳・その先の経路に障害があるかを調べます。

      (画像)当院の聴覚検査室

  • 平衡機能検査
    • 眼振検査
      めまいがあると、無自覚な眼球の震え「眼振(がんしん)」が現れます。目の動きを調べるため、特殊な検査用メガネ(フレンツェル眼鏡)を使用します。
    • 重心動揺検査
      両足を閉じた状態で立って、目を開いているとき・目を閉じたときの体のバランスを評価します。
  • 画像検査
    造影剤を使用したMRI検査で、内リンパ水腫の評価をします。内耳のむくみが起こっていない方の耳と比べると、左右差がはっきり分かります。2017年に追加された検査で確定診断には必要です。
    ※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。

メニエール病の診断

当院では、日本めまい平衡医学会の「メニエール病診断基準2017年」に則り、診断しています。
「めまい・難聴発作が反復する」ことが必要で、似ているほかの病気を除外した上で、明らかな原因が他に見つからない内リンパ水腫を「メニエール病(確実例)」と診断しています。
また、めまいのみのタイプ・聴覚症状のみのタイプなど「メニエール病非定型例」も存在しており、様々な検査から診断します。

メニエール病の治療

メニエール病の不快な症状には、薬物療法による対症療法を基本としますが、ストレスなどが発作や症状の悪化に大きな影響を与えていることから、「生活環境の改善」が非常に大事です。

メニエール病の治療目的

メニエール病には、めまい・難聴などの症状が現れる「急性期」と目立った症状がみられない「間歇期(かんけつき)」があり、それぞれ治療の目的も異なります。

  • 急性期
    発作を繰り返す時期。毎日発作を起こす人もいれば、数週間~数か月に一度の人まで、発作が起こるタイミングには個人差があります。
    【治療目的】めまい軽減、難聴の改善
  • 間歇期
    症状が安定した状態が続く時期。
    【治療目的】めまい発作の予防・聴覚機能の回復

薬物療法

  • 急性期治療
    内リンパ液の軽減を図るための浸透圧利尿薬、抗めまい薬、ステロイドなどを中心に症状を抑えます。
    なお、めまいや吐き気が強く、薬の内服ができない重症例ではめまい止めの点滴を行い、場合によって入院加療となることもあります。
    ※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。
  • 間歇期治療
    循環改善薬、抗不安薬、ビタミン製剤、血管拡張剤などを組み合わせて、発作の予防を行います。

また、当院ではメニエール病治療の選択肢のひとつとして「漢方治療」を行っています。
めまい軽減・再発予防には苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、内耳のむくみ改善には柴苓湯(さいれいとう)や五苓散(ごれいさん)などを症状にあわせて処方しています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている「医療用漢方製剤」なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

生活リズムの見直し・安静

睡眠不足・過労など肉体的ストレス、精神的ストレスは、メニエール病の症状を悪化させる要因とされています。仕事・家事を頑張りすぎず、運動や趣味を適宜行ってストレス発散しましょう。生活リズムを整え、ゆっくり心と体を休めることが何より大切です。ストレスを軽減させるだけでも、内耳の循環障害の改善が期待できます。

そのほか、薬物療法・生活環境の改善を行ってもめまい発作を繰り返し、難聴が進行するような重症例では、内リンパ液を減らすための手術「内リンパ嚢開放術」、めまいの原因となる神経を切断する「前庭神経切断術」などの外科的手術を検討することもあります。
※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。

よくあるご質問

メニエール病の治療中に日常生活で気を付けることはありますか?

メニエール病で特に気を付けたいことは「ストレス」です。メニエール病の症状改善や発作予防には「ストレス軽減」が何よりの薬となります。頑張りすぎず、十分な睡眠・栄養バランスの良い食事・適度な運動をして、生活習慣を見直しましょう。ストレスとうまく付き合っていくことがポイントです。
また、冷え性の方は身体を温めましょう。血流が良くなることで不快症状の改善に効果的です。

メニエール病はどのくらいで治りますか?

メニエール病は個人差があるので、一概にいつ治るとは言えませんが、早く治療を始めれば、1~2か月で症状が落ち着くケースがあります。しかし、メニエール病では再発が起こりやすいので、症状が落ち着いた後も、しばらくは経過観察が必要となります。

院長からのひとこと

メニエール病はめまいの代表的な病気です。めまいと前後して耳の詰まり感や聞こえにくさ、耳鳴りなどが生じます。繰り返し発症することが多く、急性期や慢性期によって薬の使い分けをしながら治療していきます。食生活や運動、睡眠など生活の習慣を見直したり、自律神経の乱れを整えたりすることで、繰り返しにくくする効果が期待できます。
このように、「自分を整えながら治療していく」という面もある病気です。肩の力を抜いてご自身のペースで一緒に治療を進めていきましょう。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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