「外耳炎(がいじえん)」とは、耳の穴から鼓膜の手前までの外耳道が傷つくことにより細菌感染・炎症を起こし、「耳のかゆみ」「耳の痛み」が現れる病気です。
外耳炎患者さんの多くに「毎日の耳掃除・耳の中を触る癖」があり、他にも水泳選手や耳栓・補聴器を使用する方、女性の発症リスクが高い傾向があります。
外耳炎の多くは急性感染症ですが、かゆみから頻繁に耳をいじってしまい、刺激によって皮膚が傷ついて炎症が拡大し、さらにかゆみが増すといった悪循環に陥ることで、慢性化してしまうケースがあります。また、炎症が悪化して外耳道が腫れてしまうと、耳だれ・難聴(耳が聞こえづらくなる)・閉そく感(耳が詰まった感じ)を伴い、糖尿病などの基礎疾患を持つ方や高齢者では重篤な合併症に進展することもあるので、注意が必要です。

外耳炎は軽症では自然に治る可能性がありますが、数日経っても症状が良くならなかったり症状を繰り返したりする場合や、難聴・閉そく感が現れたときには、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

外耳道とは?

耳の穴から鼓膜の手前までを「外耳道」と呼びます。
外耳道には細菌や真菌(カビ)など常在菌が存在しており、それぞれがバランスを保ちながら「バリア機能」の役割をしているため、基本的に感染は起こりません。
しかし、外耳道の皮膚はもともと薄く、外からの刺激に弱い部分なので、刺激を与えすぎると傷ついて細菌感染が起こり炎症が起こります(=外耳炎の発症)。

(図)耳の構造

外耳炎の疫学

厚生労働省によると、外耳炎の推定患者数(2020年)は約16万人と報告されています*1。男女比では女性、年齢層では小さなお子さんや高齢者の発症が多い傾向です。
*1患者調査 令和2年患者調査 確定数 全国編 報告書|
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004002481

(グラフ)患者調査 令和2年患者調査 確定数 全国編 報告書|厚生労働省

外耳炎の原因

外耳炎の根本原因は、外耳道が傷ついて細菌感染が起こることです。

外耳炎の発症要因

細菌感染を引き起こす要因には、大きく分けて2つあります。

  • 耳の中を頻繁にいじって傷つける
    外耳炎を引き起こす最大の要因です。毎日耳掃除をしたり、爪・指で頻繁に耳の中をかいたりすると、外耳道が傷つきます。
  • 外部からの刺激
    ヘアスプレー・ヘアカラーが耳の中に入る、衛生的でない耳栓・補聴器・イヤホンの長時間使用などが刺激となり、細菌感染を引き起こします。

外耳炎になりやすいタイプ

  • 耳掃除を毎日する・イヤホンを毎日つけている
    頻繁にやればやるほど、細菌感染リスクが高くなります。
  • 水の中に入ることが多い
    海外では、外耳炎を別名「Swimmer’s ear(水泳選手の耳)」と呼びます。
    プールや海の水など清潔ではない水が耳の中に頻繁に入ることで、発症リスクを高めます。
  • アレルギー体質
    アレルギー体質の方は、ストレスなどによって皮膚のバリア機能が低下すると、炎症を起こしやすくなります。

外耳炎の症状

外耳炎の初期症状は「軽いかゆみ・痛み」ですが、炎症が進行すると、「強い痛み」「耳だれ」「難聴」「耳閉感」などを伴うようになります。

  • 耳のかゆみ
    発症初期は軽いかゆみですが、耳の中をいじるほど炎症が拡大して、かゆみが増します。いじり続けると、さらに炎症が慢性化して「外耳道湿疹」となり、我慢できないほどのかゆみが現れることもあります。
  • 耳の痛み
    かゆみが気になって、耳の中をいじってしまうことで炎症が拡大し、「痛み」を感じるようになります。最初は軽い痛みでも、次第に激しい痛みに変わっていきます。耳を引っ張ったり口を動かしたりすると、耳が痛くなる症状は「外耳炎の特徴」です。
  • 耳だれ
    耳から出る膿で「耳漏(じろう)」とも呼ばれます。炎症がひどくなると、耳だれが出ることがあります。放置していると、耐性菌(薬への耐性を持った細菌)を生み、感染が鼻や喉に広がり、肺炎などを引き起こすケースもあります。
  • 難聴(聞こえの低下)
    外耳道の炎症が拡大し、外耳道が腫れてくると、鼓膜が音を正常に伝えにくくなり、聴力が低下する「伝音難聴(でんおんなんちょう)」を引き起こします。
    外耳炎による難聴は一時的な難聴とされており、薬物治療で改善が期待できます。
  • 耳閉感(じへいかん)
    細菌感染によって化膿し、外耳道が腫れてくると、耳が詰まったような感じを認める場合があります。

お子さんの場合には、耳の症状をうまく訴えられず、「耳をよく触る」「耳を気にする」「機嫌が悪くなる」などの仕草で表現することがあります。

気を付けたい外耳炎の合併症

外耳炎では、次のような疾患に進展することがあります。

外耳道湿疹

外耳道に湿疹ができた状態で、主な症状は「耳のかゆみ」です。しかし、湿疹によって、耳の中がガサガサしたり、ジュクジュクしたり、皮膚がただれたりするため、「気になっていじる→かゆい→かく→外耳道が荒れる→さらにかく」といった悪循環を起こしやすくなります。外耳炎と同様、過剰な耳掃除が原因となるほか、ヘアスプレーなどの外部刺激も原因となり、アレルギー体質の方に比較的多くみられます。

外耳道真菌症

外耳炎の主な病原菌は「黄色ブドウ球菌」ですが、外耳炎や外耳道湿疹が長引くと「真菌(カビ)感染」を起こすことがあります。また、イヤホンを長時間つけっぱなしにすると耳の中の換気ができなくなり、真菌の繁殖に繋がります。主な症状は耳のかゆみ・耳の痛みですが、耳だれや変色した耳垢が現れる、外耳道が腫れる、さらにカビが塊になると耳の閉そく感を覚える、といった症状が起こることもあります。自然治癒は難しく、放置していると次第に悪化していくため、すみやかに抗真菌薬などによる治療が必要な病気です。

悪性外耳炎

外耳道の感染が中耳・内耳を含む頭蓋骨(側頭骨)まで広がった状態であり、「頭蓋底骨髄炎」「壊死性外耳道炎」とも呼ばれます。糖尿病患者、細菌感染に対する抵抗力が低い高齢者に多くみられます。主な原因菌は「緑膿菌」で、発症すると激しい耳の痛み、黄緑色の耳だれ(膿性耳漏)、外耳道の腫れがみられ、顔面神経麻痺や脳神経症状を合併することがあります。入院による治療が原則となり、脳神経合併が起こると予後不良となるため、早期治療開始が重要となります。
※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。

外耳炎の検査・診断

問診や視診から耳の中の状態を確認し、総合的に診断しています。
また、他の疾患との鑑別のため、様々な検査を行います。

外耳炎の検査

  • 問診・視診
    自覚症状について詳しくお伺いします。
    症状から診断がつくケースも多いのですが、他の病気との鑑別のため、耳の中の状態を内視鏡カメラで確認します。内視鏡カメラによる検査では痛みはありません。くすぐったい感じがして、数秒で終わります。
  • 細菌培養検査
    耳だれがある場合には、耳だれを採取して炎症の原因菌を確認します。菌の種類によって、薬剤の種類が異なります。

外耳炎の診断

外耳炎は、自覚症状および視診などから総合的に診断します。
外耳炎では耳のかゆみ、耳を引っ張ると痛むといった特徴的な症状が現れ、外耳道には腫れや赤み、膿などの分泌物がみられます。
また、真菌感染による外耳炎では、診察と培養検査の結果から診断します。

(画像引用)外耳炎|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=20

外耳炎の治療

外耳炎の治療では、まず耳の中をきれいにしてから、軟膏や点耳薬(耳に直接入れるお薬)などの外用薬を使って、症状を抑えます。

分泌物の清掃・吸引・耳洗浄

耳垢を取り除く、耳だれを吸引するなど、耳の中を掃除します。
また、人肌程度(37℃くらい)の生理食塩水や薬剤を耳の中に入れて、中耳腔から耳だれを洗い流す「耳洗浄」を行うこともあります。

薬物療法

軽症~中等度では、酢酸・抗生物質(抗菌剤)・ステロイド剤の点耳薬(耳に直接入れるお薬)・塗り薬などを使用します。なお、炎症範囲が広かったり症状が強かったりする場合には、抗生物質や消炎鎮痛剤の内服を行うことがあります。

いずれのお薬も決められた期間は使用を続けるようにしましょう。
自己判断で中途半端に薬を止めてしまうと、症状が悪化して、余計に治療期間が長引く可能性があります。

<漢方治療>

当院では外耳炎治療の選択肢のひとつとして「漢方治療」を行っています。
外耳炎に対しては、湿疹など皮膚疾患に効果的な「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」を主に処方しています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている医療用漢方製剤なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

生活習慣の改善

外耳炎の治療でポイントとなるのが、「できるかぎり耳を触らない」ことです。
薬を入れるとき以外、耳をいじらないことが症状改善への第一歩です。
また、イヤホンなどの使用を継続している状況では、なかなか改善していきません。
治療と並行して、原因に繋がるような生活習慣を見直しましょう。

よくあるご質問

毎日の耳掃除がクセになっています。外耳炎になりやすいって本当ですか?

本当です。確かに耳掃除をすると気持ち良いですよね。実は頻繁にしたくなるには、理由があります。それは外耳道の奥には「迷走神経」というリラックスや気持ちよさを感じる神経が走っているからです。
気持ちよさを求めて、耳掃除が習慣化してしまうと、薄い皮膚である外耳道は傷つきやすくなり、細菌感染が起これば、外耳炎となります。

耳掃除は、月1回程度で十分です。なお、耳垢は耳の入り口から1cmぐらいのところに溜まるので、見える範囲を綿棒で優しく取りましょう。無理に奥までやろうとすると、逆に奥へ押し込めてしまったり外耳道が傷ついたりして、痛みの強い外耳炎を発症する恐れがあるので、ご注意ください。

外耳炎を予防するには、どうすれば良いですか?

次のようなポイントに注意すると良いでしょう。

  • 毎日耳掃除はしない
    耳垢(みみあか)には、殺菌効果や外耳道を保護する役割があります。毎日耳掃除すると自浄作用がなくなり、逆に皮膚のバリア機能が低下して外耳炎を引き起こしやすくなります。また、不要な耳垢は耳の穴から自然に排出されるので、頻繁に耳掃除をする必要はありません。特にお風呂上りの耳掃除は外耳道を傷つけやすいのでやめましょう。
  • 耳栓・補聴器・イヤホンは清潔な状態を保つ
    耳に直接触れるものは、清潔に保つように心がけましょう。
    プールなどで耳栓をする場合、濡れたままでは細菌が増殖するので、使用後はよく乾かし、定期的に交換しましょう。補聴器・イヤホンも使用後は付着した汚れを拭き取りましょう。

院長からひとこと

耳を触るという癖は、よくあります。耳かきや綿棒で毎日耳を触らないと気が済まないという方は結構多いです。外耳道の皮膚は薄いので、ちょっと掻く刺激が強いと、すぐに炎症を起こしてしまいます。慢性化すると、治るのに時間がかかったり、繰り返しやすくなったりしますので、症状が軽いうちに治して、後は触りすぎないようにしましょう。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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