突発性難聴は、ある日突然、片側の音が聞こえない・聞こえにくい状態となる病気であり、今のところ原因は不明です。

この病気の患者数は約10年前と比べて約1.5倍増加しており、若者~高齢者まで幅広い年齢層で発症しています。特に40代~60代の働き盛りの方に多くみられ、ストレス・睡眠不足などが発症の引き金になりやすいとされています。また、難聴の発生と前後して、耳鳴り・めまい・吐き気・耳閉感(耳が詰まった感じ)などを伴うことがあります。

突発性難聴では、「遅くとも発症後2週間以内」に治療を開始することが大事です。治療開始が遅れると、聞こえが戻りにくくなったり聴力を失ったりする可能性があります。
急に聞こえにくくなったと感じたら、すみやかに受診しましょう。

聞こえのしくみと難聴

普段何気なく聞こえている「音」とは、音の元(音源)が起こした「空気の振動」なのです。音源からの空気の振動が耳に届き、外耳~中耳~内耳~蝸牛神経~大脳と様々な器官が連携することによって、私たちは音を認知しています。

音が聞こえるしくみ

空気の振動は、「耳介(じかい:一般的に耳と呼ばれる部位)」によって集められます。
集められた空気の振動は外耳道を通り、鼓膜に伝えられ、鼓膜から繋がった耳小骨で増幅されます。さらに、蝸牛の中のリンパ液が振動することにより有毛細胞が刺激を受けて、音の情報を電気信号に変えます。電気信号は蝸牛細胞を通って脳に伝わり、「音」として認識します。

(図)音を認知するしくみ

難聴の種類

「難聴」と言っても、音が聞こえない、聞こえにくい状態を引き起こす原因は様々あります。
難聴は次の3つのタイプに分けられます。

  • 伝音性難聴(でんおんせいなんちょう)
    中耳炎・外耳炎(外耳道炎)などが原因の場合では、一時的な難聴として薬物療法だけで改善するケースも多いのですが、一方で滲出性中耳炎・鼓膜穿孔(穴が開いた状態)・耳垢栓塞(耳垢が溜まり詰まる状態)が原因となっている場合には、手術が必要となることがあります。
    原因:音を集めて増幅させる器官(外耳~中耳)の障害
    きっかけとなる病気:急性中耳炎・外耳炎・滲出性中耳炎・鼓膜穿孔・耳管塞栓など
    治療法:薬物療法・手術・補聴器
  • 感音性難聴(かんおんせいなんちょう)
    音自体をうまく感じ取れない状態です。特に「高音域の音が聞こえない」「複数の音を聞いたときの音の聞き分けが難しい」といった特徴がみられます。突発性難聴やメニエール病などの急性難聴では、早期に適切な治療(主に薬物療法)を行えば、聴力が改善することがありますが、慢性に経過する騒音性難聴・加齢性難聴、生まれつきの先天性難聴では、治療による聴力の回復は難しいです。ただし、補聴器を使用しても効果がみられない両側重症難聴者では「人工内耳手術」で聴力を獲得できる可能性があります。
    原因:音を感じ取る器官(内耳)・蝸牛神経・脳の障害
    代表的な疾患:突発性難聴、加齢性難聴、騒音性難聴、先天性難聴など
    治療法:薬物療法・補聴器・人工内耳手術
  • 混合性難聴(こんごうせいなんちょう)
    伝音性難聴と感音性難聴が合併した難聴です。症状の出方には個人差があり、症状に応じた治療が必要となります。

突発性難聴とは?

突発性難聴は、音をうまく感じとれない「感音性難聴」であり、突然聞こえが悪くなる急性難聴の中で、原因不明なものを指す総称となります。

突発性難聴の疫学

2001年の全国疫学調査(厚労省調査研究班)によると、突発性難聴で病院を受診している患者さん(受療者数)は年間3万5,000人と推定され、男女差や発症する耳の左右差はありません。特に40代~60代の働き盛りでの発症が多く、50代~60代にピークがみられると報告されています*1。しかし、近年では10代20代の若者の発症も増えており、年齢による偏りは見られなくなっています。

*1(参考)2001年発症の突発性難聴全国疫学調査

突発性難聴になりやすい人

突発性難聴を発症した患者さんの多くが、発症前に過労・睡眠不足・ストレスを感じていたことが分かっています。また、高血圧・糖尿病などの基礎疾患がある方や過度な飲酒をされる方も、そうでない方と比べて発症リスクが高いです。

突発性難聴の原因

突発性難聴の根本原因は、蝸牛の中にある音を感じ取って脳に伝える役割の「有毛細胞が傷つき壊れてしまうこと」です。有毛細胞の損害を引き起こす原因は今のところ明らかになっていませんが、様々な要因が組み合わさって発症していると考えられています。
中でも有力な要因として、次の2つがあります。

  1. ウイルス感染
    帯状疱疹ヘルペス、単純ヘルペス、はしか、インフルエンザ、ムンプス(おたふく風邪)などのウイルスが内耳に感染することで、蝸牛障害を起こすと考えられます。
  2. 内耳循環障害
    動脈硬化や自律神経の乱れ・ストレスなどにより、血管が収縮し、内耳の血液循環が悪くなることで、内耳の機能低下・神経変性が起こると考えられます。

突発性難聴の症状

「難聴=全く聞こえない」ではありません。少しでも聞こえが悪くなっている状態も「難聴」です。人は少しだけ聞こえが落ちた時は、耳が聞こえないのではなく「片耳が詰まっている」と感じることがあります。全く聞こえない難聴と比べて、少し聞こえが悪くなっている程度の難聴では、受診が遅れやすく、聴力回復が難しくなるケースも多いです。

突発性難聴の特徴

突発性難聴で現れる症状の特徴は、次の通りです。

  • 急に発症する
    「昨日まで聞こえていたのに、朝起きたら聞こえにくくなっている」といったように、発症した時点で気づける難聴であることが多い
  • 片側だけ聞こえが悪くなる(稀に両側)、または耳が詰まったように感じる
  • 特に高い音が聞こえにくい
  • 発症前後に耳鳴り・めまい・耳閉感・吐き気などが現れるケースもある
  • 症状の波(良くなったり悪くなったりすること)はない

ただし、「聞こえにくさ」の程度には個人差があります。
なお、難聴やめまいなどが起こるのは1度だけで、症状が良くなった後に再発するような場合には別の疾患の可能性があります。
※片側の耳で発症後、もう片方の耳で発症することは十分起こり得ます。

突発性難聴と似ている病気

突発性難聴の症状に似ている病気として、次のようなものがあります。

  • メニエール病
    突発性難聴と似ている病気として有名です。突発性難聴との違いは「症状の反復」があることです。難聴やめまいなどの症状が1度しか起こらない突発性難聴と異なり、メニエール病ではめまいと難聴の症状を繰り返します。
  • 外リンパ瘻(がいりんぱろう)
    スキューバダイビングなどのスポーツ・くしゃみ・鼻を強くかむ・飛行機搭乗により、内耳の壁に穴が開いてしまい、内耳のリンパ液が漏れ出る病気です。突然、「ポン」と音がして難聴が起こる瞬間が分かるケースがあります。緊急手術で開いた穴を塞がないと、難聴が治らない場合があります。
  • ムンプス難聴(おたふく風邪)
    おたふく風邪の原因である「ムンプスウイルス」が内耳の細胞を壊すことによる難聴です。通常、片側の難聴となりますが、稀に両耳が聞こえなくなるケースがあります。おたふく風邪の特徴である「耳下腺の腫れ」がなくてもムンプス難聴が起こることがあるので要注意です。ムンプスウイルスの感染は血液検査でも判別できます。
  • 聴神経腫瘍
    「聴神経」にできる脳腫瘍の一種で、多くは良性ですが、時間をかけて徐々に大きくなります。MRI検査をすることで診断可能です。
  • 急性低音障害型感音難聴
    低音が聞こえにくくなる感音難聴で、ストレス難聴とも呼ばれます。男女比は1:2~3と、女性の発症が多いです。耳閉塞感・耳鳴りが中心となり、なんとなく聞こえにくい感じの難聴が現れます。通常めまいは伴いません。
    突発性難聴との違いは、「難聴の変動や再発がみられること」です。また、難聴に加えて、めまいを繰り返すようになり、メニエール病に移行することがあります。

突発性難聴の検査・診断

突発性難聴の検査

問診や聴力検査で聞こえの状態を調べます。
また、突発性難聴には同じような症状を起こす他の病気(メニエール病・聴神経腫瘍など)との鑑別も重要なため、必要に応じて様々な検査を行います。

問診・視診

発症前後の状況を確認します。
自覚症状のほか、発症時期・既往歴(糖尿病・高血圧など)・お薬の服用歴・耳の手術歴・ご職業などについて詳しくお伺いします。
また、難聴の原因となる疾患を除外するため、耳鏡・耳内視鏡(ファイバー)で外耳・中耳(鼓膜)の状態を確認します。

純音聴力検査

どのくらい小さな音が聞こえるか、7つの高さの純音を使って「気導聴力検査」「骨導聴力検査」の2種類から聞こえの程度を確認します。検査時間は約15分です。

  • 気導聴力
    音の伝達経路に障害があるかどうかを確認する検査。
  • 骨導聴力
    内耳(蝸牛)に刺激を与えて音を聞くことで、内耳・その先の経路に障害があるかを調べる検査。
    • (画像)当院の聴覚検査室

      そのほか、めまいを伴う場合には目の動きを調べる「眼振検査」などの平衡機能検査、聴神経腫瘍の確認には「MRI検査」「聴性脳幹反応(ABR)」、ウイルス感染には「血液検査」を行うことがあります。
      ※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。

      突発性難聴の診断

      突発性難聴の診断には、原因の明確な急性感音難聴を除くための「除外診断」が基本となります。当院では、2015年改訂厚労省難治性聴覚障害に関する研究班による診断基準を基に評価して、難聴を起こす明らかな原因が他に見つからない場合に「突発性難聴」と診断しています。

      なお、確定診断には、より詳しい検査が必要となりますが、突発性難聴に準じた治療を開始しながら鑑別を進めます。

突発性難聴の治療

突発性難聴の効果的な治療法は、現在までに確立されていません。
外来での薬物療法による対症療法を治療の基本として、高度難聴では入院加療が必要となる場合があります。

薬物療法

ステロイド内服・点滴投与を中心に、代謝改善薬、循環改善薬、抗凝固薬、ビタミン製剤などを組み合わせます。
また、当院では突発性難聴治療の選択肢のひとつとして「漢方治療」を併用することがあります。

突発性難聴に対しては柴苓湯(さいれいとう)や五苓散(ごれいさん)などを処方しています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている医療用漢方製剤なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

生活リズムの見直し・安静

生活リズムを整え、静かな環境でゆっくり心と体を休めることが大切です。ストレスを軽減させるだけでも、内耳の循環障害の改善が期待できます。

そのほか、血流改善を目的とした「高圧酸素療法」「鍼治療」などの治療法も選択肢として存在しますが、有効性は明らかになっていません。

よくあるご質問

突発性難聴は治りますか?

症状の改善具合については個人差があるので、一概に断言できません。
一般的に、適切な治療を受けた場合でも完治するケースは約40%、なんらかの改善があるケースは約50%、残りの約10%は全く改善しないとされています。

さらに、治りにくいタイプの傾向として、「高度難聴」「高血圧・糖尿病といった基礎疾患を持っている」「めまいを伴う」「高齢での発症」などが挙げられます。

なお、発症から治療開始が遅れれば遅れるほど、治療効果は下がります

突発性難聴の治療は「時間との勝負」と言われており、発症から1か月程度で聴力が固定してしまうため、「急に聞こえが悪くなった」と感じたら、様子見をせず、すぐにご来院いただくことをおすすめします。

突発性難聴は予防できますか?

完全な予防法はありませんが、発症要因の一つとして考えられている「内耳の血流循環の悪化」を起こさないよう、次のような点に注意すると良いでしょう。

  • 栄養バランスの良い食事・十分な睡眠・適度な運動を行う
  • 耳に大きすぎる刺激を与えない
  • 過度な飲酒・喫煙を避ける
  • 疲労・ストレスを溜めない

院長からのひとこと

突発性難聴は、ある日突然起こる病気ですが、急に耳鳴りが大きくなった、片耳の詰まり感が全く取れない、電話の声の聞こえ方が左右で違う、などで気づかれて来院される方が多いです。
早く治療する方が治りやすいですが、難聴の程度によっては耳鳴りや難聴が残ってしまう場合もあります。ストレスや睡眠障害、疲れなどから起こることが多く、治療を続けながら自分の生活を見直すことも必要です。
もし耳の聞こえに異常を感じたら、お早めに来院してください。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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