「会話で聞き返しが多くなった」「テレビの音が大きいと指摘される」「病院などで名前を呼ばれる声が聞こえづらい」「家族や周りの人から『聞こえていないのでは?』と指摘される」など、そろそろ補聴器が必要かな?と思われたら、いきなり買わず、まずは耳鼻咽喉科をご受診ください。

補聴器は難聴を治す機器ではなく、読んで字のごとく「聞こえを補う機器」です。聞こえの悪さ(難聴)は患者さんごとに異なるため、補聴器は細かな調整を必要とする「医療機器」なのです。また、ご家族などから補聴器をプレゼントされたが、うまく聞こえないので使っていない、というケースもよくみられます。補聴器は装着すればすぐに聞こえるものではなく、使用中も根気よく「聞こえのトレーニング」を続けていくことが大切です。

当院では「補聴器外来」を開設し、患者さんの生活環境・身体レベルなどを考慮して補聴器を選び、さらに患者さんお一人お一人に合うように調整しています。院長は日本耳鼻科学会認定の「補聴器相談医」ですので、難聴や補聴器について何でもお気軽にご相談ください。

補聴器と難聴

私たちが聞いている「音」とは、音の元(音源)が起こした「空気の振動」です。音源からの空気の振動が耳に届くと、外耳~中耳~内耳~蝸牛神経~大脳と様々な器官が連携して、はじめて私たちは音を認知できます。この経路のどこかで障害が起こると、聞こえが悪くなる「難聴」を発症します。

なお、この障害は病気以外に加齢(老化)によっても起こります。
一般的に、40歳代から聴覚の衰え(特に高音域)が少しずつ始まります。60歳代になると、聴力が低下する音域が増えて、聞こえが悪くなったことを感じやすくなり、70歳代以降ではほとんどの音域で軽度~中等度難聴レベルまで低下していきます。「75歳以上の約2人に1人は難聴」という報告もあります。

難聴の分類と補聴器の適応

難聴は原因によって次の3つに分かれ、薬物治療などで改善が期待できる難聴には基本的に治療を優先して行い、改善が難しいような難聴に対しては補聴器を使用することになります。

  • 伝音難聴(でんおんなんちょう)
    【原因】音を集めて増幅させる器官(外耳~中耳)の障害
    【主な病気】外耳炎・急性中耳炎・滲出性中耳炎・鼓膜穿孔・耳硬化症など
    【治療法】薬物療法・手術・補聴器
    治療が困難な場合に、補聴器の適応となることがあります。
  • 感音難聴(かんおんなんちょう)
    【原因】音を感じ取る器官(内耳)・蝸牛神経・脳の障害
    【主な病気】突発性難聴・騒音性難聴・加齢性難聴・先天性難聴など
    【治療法】薬物療法(突発性難聴の早期など)・補聴器・人工内耳手術(補聴器でも効果不十分な両側重症難聴など)
  • 混合性難聴
    【原因】伝音難聴と感音難聴の合併
    【主な病気】中耳炎が悪化して、内耳が障害を受けた場合など
    【治療法】薬物療法・手術・補聴器など
    ※症状の出方には個人差があるので、症状に応じた治療となります。

    (図)難聴の分類

難聴の影響

難聴になると、社会生活に様々な支障を来すようになるということが分かっています。
難聴はできるだけ早期から予防して、聞こえが悪くなってきたら、早めにサポートしてあげることが大切です。

*1(参考)難聴によって認知症リスクが高くなる!?|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
http://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/001/

(図)難聴のうつ・認知症への影響イメージ

補聴器のしくみと役割

補聴器は、聴力を補うための医療機器です。補聴器の中には小さなプロセッサ(処理装置)が入っており、外から入った音をデジタル信号に変換して、イヤホンから音声を出力し耳に届けます。また、補聴器は「入ってきた音を大きくする」だけではなく、不要な雑音を軽減させる、大きすぎる音を抑えるなどの処理をして「聞き取りやすい音質や音量にして伝える」という役割も担っています。補聴器によって聞こえを補うことにより、脳が活性化し、人とのコミュニケーションを楽しむなど生活の質(QOL)が改善され、認知症リスクを低下させる可能性が高くなるとされています。

補聴器のご相談の流れ

当院では、補聴器相談医の資格を持つ院長が難聴に対する検査・診察を行っています。難聴症状を起こす病気はメニエール病・聴神経腫瘍など様々あるため、検査により鑑別します。
また、補聴器に関するご相談・機器の調節などは「補聴器外来」にて専門的にお受けしています。

耳の診察・聴力検査

耳の内視鏡などによる耳の中の観察や聴力検査から、補聴器の適応有無を判断します。

  • 問診・視診
    発症前後の状況を確認します。自覚症状のほか、発症時期・既往歴(糖尿病・高血圧など)・お薬の服用歴・耳の手術歴・ご職業などについて詳しくお伺いします。
    また、耳鏡・耳内視鏡(ファイバー)で外耳・中耳(鼓膜)の状態を確認します。
  • 純音聴力検査
    どのくらい小さな音が聞こえるか、7つの高さの純音を使って「気導聴力検査(音の伝達経路の障害検査)」「骨導聴力検査(内耳以降の経路の障害検査)」の2種類から聞こえの程度を確認します。検査時間は約15分です。

    (画像)当院の聴覚検査室

  • 語音聴力検査 (※純音聴力検査後、後日予約制)
    言葉の聞き取り検査のことで、ヘッドホンから一文字ずつ流れる「ア」「イ」などの音が聞こえたら、声に出して話してもらいます。どのくらい聞き取れるかを調べます。検査は約20分です。

【補聴器外来】補聴器の相談・試聴

認定補聴器技能者が患者さんの使用目的や使用環境などを詳しく伺いながら、ご希望の種類やご予算などに合わせて機種を選択します。補聴器の貸出も実施しています。

【補聴器外来】補聴器の点検・調整

補聴器を2週間程度試していただいた後、再度「補聴器外来」をご受診ください。
使用した感想を詳しくお伺いして、患者さんに合う補聴器を決定します。
※効果が実感できなければ再調整や別の機種を試します。また、補聴器の返却・継続貸し出しも可能です。

【補聴器外来】補聴器の選択・作製

補聴器が有効に使用できているかを確認できたら、補聴器を最終決定して購入となります。(納品まで約1~2週間)

【補聴器外来】補聴器の調整(フィッティング)

患者さんの聞こえに合わせて音の調整などを行い、補聴器をお渡しします。
 装着の練習や操作説明、お手入れ方法(クリーニング)、保管方法などをご説明します。

診察

補聴器を装着して、一度診察を行います。
特に問題なければ、次回以降は定期的な診察(聴力検査)と補聴器のメンテナンスを行っていきます。

【補聴器外来】アフターケア

補聴器を日常的に使用し始めると、お試し使用では気づかなかった自分の声や生活音(雑音)が気になったり、違和感が出てきたりするケースがあります。
当院では、患者さんの使用される状況に合わせ、3か月~6か月おきに微調整を行っております。
この「微調整」が補聴器には非常に大切であり、微調整を続けることで日々の生活に補聴器が馴染んでいきます。ご面倒かもしれませんが、補聴器使用中に気になることが出てきた場合には、すみやかにご来院ください。

当院の補聴器外来

当院では、以下の時間帯に「補聴器外来」を開設しています。
補聴器外来では、認定補聴器技能者による補聴器の説明、患者さんの生活スタイルに合わせた適切な補聴器を選択するためのヒアリング、フィッティングテスト、補聴器の貸し出し、メンテナンス(約3~6か月に1回)などを行っています。

【開設時間】第2火曜日および第2・4金曜日 13時~15時 
【予約の有無】要予約

<認定補聴器技能者とは?>

厚生労働省の外遊団体によって、厳しい条件のもと定められた資格で、患者さんに補聴器を安全で効果的に使用してもらうための必要な知識・技能を習得している「補聴器のスペシャリスト」のことです。4年間の講習期間(実地研修を含む)後、試験に合格して初めて資格が得られます。さらに、資格の有効期間は5年であり、資格更新には有効期限内にさらなる知識・技能向上のための講習を受けることが義務付けられています。

補聴器の種類と特徴

主な補聴器の種類と特徴は、次の通りです。
当院では、以下の補聴器タイプの全てを取り扱っております。

耳かけ式

補聴器本体を耳の後ろにかけるタイプで、耳を塞がないので、違和感が少なく、外部からの音を自然に聞くことが可能です。近年ではコンパクトな上、メーカーによってカラーバリエーションが豊富でおしゃれなデザインや目立ちにくいデザインが多数発売されています。
耳かけ式では本体から出た音がチューブを通じて、耳の中に音を届けていますが、音が出る部分(レシーバ)が耳の穴の中に収まるタイプ(RIC)もあります。

【メリット】扱い・操作が簡単、サイズ・カラーバリエーションが豊富
【デメリット】汗が入りやすい(※汗に強い機種もあり)

耳あな式

耳栓のような耳の穴に収まるタイプです。耳の集音機能を活かす造りなので自然な聞こえに近いです。

【メリット】目立ちにくい、軽量でコンパクト、自身の耳の形に合わせて作成するオーダーメイドがほとんど
【デメリット】特に小さいサイズでは紛失の恐れ・機能制限があるタイプがある、オーダーメイドが多いので高価

ポケット式

本体とイヤホンをコードでつなぐタイプの補聴器です。

【メリット】比較的安価、スイッチなどが大きいので操作がしやすい、話し手に本体を向けることで聞き取りやすくなる(マイク内蔵型)
【デメリット】ポケットの中に入れることで、布すれ音の雑音やコードが邪魔と感じるケースがある

よくあるご質問

補聴器を付けるのが、恥ずかしいのですが・・・。

聞こえの悪くなった患者さんの中には、「聞こえが補える」というメリットよりも「補聴器を付けることが恥ずかしい」と感じて、何となく補聴器装着を敬遠される方も少なくありません。しかし、補聴器を付けることは、決して恥ずかしいことではありません。難聴のまま過ごすことによる影響(そもそも生活しにくい、危険回避しにくい、他人と話すこと自体が億劫になる、認知症を進める一因となるなど)は、補聴器装着が遅れれば、遅れるほど大きくなっていきます。聞こえが悪くなったら、早めに補聴器を付けて、聞こえのトレーニングをしながら日常生活に馴染ませていく方が、快適な毎日をお過ごしいただけるでしょう。なお、最近の補聴器は小さくおしゃれになっており、デザインのカスタマイズも可能です。院長は補聴器相談医ですので、補聴器に関するお悩みやご心配事などあれば、お気軽にご相談ください。

補聴器を付ければ、聞こえを取り戻しますか?

いいえ。補聴器は音を聞き取れるように補助するものであり、本来の聞こえを取り戻すものではありません。また、最近の補聴器は高性能になっていますが、装着すればすぐによく聞こえるようになるとは限りません。患者さんの聞こえに合わせた機種の選定や調整(フィッティング)を行い、使用中も微調整・聞こえのトレーニングを続けないと、うまく聞こえない、耳に合わないなど、結局使わなくなる原因に繋がりかねません。

値段の高い補聴器の方が、よく聞こえますか?

一般的な補聴器と比べて、オーダーメイド補聴器では機能の多さや耳へのフィット感がより良い傾向にあるため、高額となるものが多いです。
しかし、価格が高ければ、よく聞こえる補聴器ではありません。
どんな補聴器でも、使う人の難聴具合・使用目的・環境などに合わせた補聴器を選択し、患者さんごとに細かく調整してから使用しないと、補聴器の効果を最大限に引き出すことができません。

補聴器は、保険適用で買えますか?

補聴器は、健康保険で購入することはできません。
しかし、聴力レベルにより、聴覚障碍者に該当される方には、補助金制度があります。また、2018年より補聴器の購入に関して「医療費控除」が受けられようになりました。ただし、控除するためには当院のような「補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科」を受診し、検査・診断を受ける必要があります。クリニックから提供される「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」と「領収書」を用いることで、補聴器購入費が医療費控除の対象となります。

補聴器と集音器・助聴器は一緒ですか?

通販番組や新聞の広告欄などで、「集音器」「助聴器」「音声増幅器」といった「補聴器のようなもの」を見かけたことがある方もいらっしゃるでしょう。集音器などは、補聴器に似た形をしていますが、中身は全くの「別物」です。

補聴器は厚生労働省から認定されている「管理医療機器」なので、聞こえが低下した人向けに開発・製造されており、「使う人に合わせて調節することが前提」となっています。聞き取りやすくするほかに、過剰な音・音量で耳を傷めないように出力抑制機能があるなど、効果や安全性が保証されています。さらに、対面販売も義務付けられています。

一方、集音器などは医療機器ではないので、今のところ製造・販売における制約がなく、使う人に合わせた細かい調整ができるような仕様もありません。補聴器と比べて手軽に購入できるメリットがありますが、使用者に合わせた細かな調整ができないため「満足な効果が得られない」「うまく聞こえないので使わない」「健康被害が出る」といったトラブルに繋がりやすい傾向があります。聞こえが悪くなったと感じたら、まずは一度、耳鼻咽喉科をご受診ください。

院長からのひとこと

聞こえが悪くなってくると、周囲の人とのコミュニケーションが難しくなり、聞こえているふりをしているうちに会話に参加するのが億劫になってしまう、ということがあります。最近よく言われているのは、「難聴は認知症を進行させる要因の1つである」ということです。
補聴器は、自身の聴力に合わせて聞こえやすくするための小さな器械であり、生活のQOLを高めるために装着するものなので、付けるのは恥ずかしいことではありません。
「最近聞こえにくくなったかな?」と思ったら、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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