「首」は、ボウリングの球と同じくらいの重さがある頭(体重50kgなら約5kg)を常に支え、体とつなぐ役目をしています。さらに、首の内側には主要な神経・血管が通り、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、食道、気管などの臓器も存在しているため、首は重要な働きを持つ部位でもあります。
首の病気でよくみられる症状が、「首が腫れる」ことです。
首の腫れを引き起こす病気には、次のようなものがあります。
- 首にぐりぐりしたものがある、首が腫れる……リンパ節腫脹(リンパ節炎、伝染性単核球症、風疹、悪性リンパ腫、転移性リンパ節など)、頸部アテローム、頸部嚢胞など
- 首の真ん中(のど仏)付近が腫れる、しこりができる……頸部嚢胞(正中頸嚢胞)、甲状腺腫瘍(腺腫様甲状腺腫、甲状腺濾胞腺腫、甲状腺乳頭がんなど)
耳鼻咽喉科では、首の異常に対して、問診・視診・触診のほか、必要に応じて内視鏡検査、超音波検査、CT、MRI検査、血液検査などを行います。
首の病気は、原因によって治療法や予後(病気の経過)が異なります。
首に異常が見られる場合には、まずはお気軽に当院までご相談ください。
リンパ節腫脹(りんぱせつしゅちょう)
リンパ節腫脹とは、首のリンパ節が腫れることで、主な原因に炎症または腫瘍があります。
炎症が原因となる病気には、リンパ節炎(急性・慢性・結核性・亜急性壊死性など)、伝染性単核球症、風疹などがあります。首の腫れが急に現れ、痛み・発熱を伴うことが多く、治療は消炎剤、消炎鎮痛剤、抗菌薬などの薬物療法を行います。中には、急速に悪化し、入院加療が必要となることもあります。
腫瘍が原因となってリンパ節が腫れる病気には、悪性リンパ腫、癌によるリンパ節転移などがあります。首の腫れが徐々に大きくなる特徴があり、腫瘍の性質によって治療法は異なります。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
リンパ節炎
リンパ節が腫れる原因の病気としてよくあるのが、「急性リンパ節炎」です。
発症の直接原因はリンパ節へのウイルスや細菌感染となりますが、感染の背景には急性咽頭炎・扁桃炎、虫歯などがあります。急性リンパ節炎の症状は、1cmほど(小指の先くらい)のリンパ節の腫れ、押した時の痛み(圧痛)を伴います。
咽頭炎や扁桃炎が慢性化すると、リンパ節炎も同様に「慢性リンパ節炎」となることがあります。慢性の場合、圧痛はあっても軽く、首の腫れが2~3か月続きます。原因疾患が治癒すると、同じように症状は改善していきます。
亜急性壊死性リンパ節炎
若い女性に多いリンパ節炎です。首のリンパ節の腫れと微熱が長く続きます。採血検査やエコーで診断をします。治療はステロイドや消炎鎮痛剤などを使います。
伝染性単核球症
EBウイルス感染が原因となる「伝染性単核球症」でも、リンパ節の腫れがみられます。
伝染性単核球症では、リンパ節の腫れや高熱 (38℃以上が多い)、急性咽頭炎・扁桃炎のような強い咽頭痛が現れるほか、肝臓・脾臓(ひぞう)が腫れることもあります。多くの人は幼児期にEBウイルスの不顕性感染(ふけんせいかんせん)*1を経験していますが、思春期以降に初感染した場合、「伝染性単核球症」を発症することがあります。主に唾液を介した接触感染が多いため、「kissing disease (キス病)」という別名があります。
確定診断には、採血してEBウイルスの抗体価を調べます。
*1不顕性感染:感染しても、明確な症状が現れない、またはとても軽い症状で経過すること。
風疹
風疹ウイルスの感染が原因です。2~3週間の潜伏期間を経て、リンパ節の腫れ、発熱、小さな発疹などの症状が現れます。血液検査によって診断します。特効薬はなく、安静の上、発熱・関節の痛みには鎮痛剤などの対症療法を行います。妊婦さんが発症すると、お腹の赤ちゃんが先天性風疹症候群になることがあるので、注意が必要です。風疹は学校感染症第二種に定められているので、発疹が消えるまでは出席停止となります。
悪性リンパ腫
腫瘍化した白血球の中のリンパ球が全身のリンパ節を破壊しながら、進行する病気です。症状はリンパ節の腫れ以外に、発熱、倦怠感、体重の減少がみられることもあります。抗がん剤や放射線治療が主体となります。
転移性リンパ節
悪性腫瘍が首のリンパ節に転移することでリンパ節が腫れます。リンパ節炎のような痛みはありませんが、硬いしこりとなります。もともとの悪性腫瘍と共に、抗がん剤や放射線治療、リンパ節摘出術を元の悪性腫瘍の治療の一環として行います。
ほかにも、リンパ節が腫れる病気には、結核ウイルス感染による「結核性リンパ節炎」、原因不明で発熱が1週間以上も続くなど全身症状を伴う「組織球性壊死性リンパ節炎(菊池病)」、厚生労働省の指定難病になっている「サルコイドーシス」など、注意が必要な病気もあります。
首に気になる症状がみられる場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診すると良いでしょう。
甲状腺腫瘍
首にできる腫瘍で代表的な病気の1つに「甲状腺腫瘍」があります。甲状腺にできる腫瘍の総称です。
甲状腺は、首の真ん中に位置する甲状軟骨(のど仏)のすぐ下にあります。蝶のような形で、気管をまたぐように左右に広がっている臓器です。主に新陳代謝を促したり、身体を調整したりする甲状腺ホルモンを分泌しています。
甲状腺腫瘍では、自覚症状を感じることは少ないですが、腫瘍ができると甲状腺部分に比較的硬い塊(腫瘤:しゅりゅう)を感じられるようになります。腫瘍が大きくなってくると、首の前に隆起してきて、見た目でも確認できるようになることもあります。
検査は、まずは超音波検査や血液検査になります。必要に応じてCTやMRIなどを行います。
甲状腺腫瘍には、良性腫瘍の「腺腫(せんしゅ)」と悪性腫瘍の「がん」があります。良性腫瘍では、腫瘍のサイズが大きい、甲状腺ホルモンの過剰分泌や悪性腫瘍の可能性が完全に否定できない、などの理由がなければ、手術せずに経過観察となることもあります。悪性腫瘍の場合には、摘出手術が検討されます。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
腺腫様甲状腺腫
甲状腺に1~数個のしこり(結節)ができる病気です。痛みなどはなく、甲状腺の腫れ以外の症状はみられないことが多く、原因は今のところ不明です。
ほとんどの場合、手術の必要はなく、定期的にしこりの数や大きさを調べ、経過を観察します。
甲状腺濾胞腺腫(こうじょうせんろほうせんしゅ)
痛みのないしこりができる病気で、時間をかけて大きくなる特徴があります。
良性腫瘍ですが、超音波検査や細胞診を行っても悪性腫瘍との区別が難しい病気でもあり、腫瘍が大きい(3cm~)、徐々に大きくなる場合には、悪性の可能性があるため、手術を検討することがあります。
甲状腺乳頭がん
甲状腺にできる悪性腫瘍のうち、大部分を占めます。胸の乳腺とは全く関係なく、がん細胞の形が乳頭に似ていることから名付けられています。首のリンパ節に転移しやすく、肺や骨に転移することも稀にあります。治療は手術となります。甲状腺を摘出した範囲に応じて、甲状腺ホルモン剤の服用が必要となることがあります。
院長からひとこと
首を触っていると、時々何かのしこりを感じることはありませんか?
肩こりのせいかな?と思って経過をみていると、何かの病気という時もあります。
気になったら早めに耳鼻科を受診してみてください。