「リンパ節腫脹(りんぱせつしゅちょう)」は、首の周りや胸・お腹の中にあるリンパ節が腫れている状態を指します。
リンパ節が腫れる原因には、リンパ節炎・伝染性単核球症・風しんなどの「反応性(炎症性)リンパ節腫脹」と、がん・悪性リンパ腫などの「悪性疾患」があります。
リンパ節腫脹の多くは、ご自分でリンパ節の腫れを「玉のようにグリグリしたもの」「ころっとしたもの」といったように感じることができます。さらに、感染などによる反応性リンパ節腫脹では、患部に痛み・圧痛(押すと痛み)があり、発熱や咽頭痛、倦怠感などの症状を伴います。一方、悪性の場合では、しこりがあっても痛みがないケースが多いです。
リンパ節腫脹の治療は原因ごとに異なります。反応性であれば、経過観察または薬物療法を行うことにより1~2週間程度で改善していきます。なお、悪性疾患の場合には原因疾患に合わせ、診療ガイドラインに沿って治療を進めます。
首に腫れや気になることがある場合には、お気軽にご相談ください。
リンパ節とリンパ節腫脹
リンパ節とは?
リンパ節は2~3ミリ程度の豆のような形をした器官で、全身に張り巡らされているリンパ管内に点在しています。成人では約300個~600個あるとされ、特に頸部(首)、腋窩(脇の下)、鼠径部(脚の付け根)に多く存在しています。
リンパ節には、リンパ球・マクロファージなどの免疫細胞が集まっており、細菌やウイルスといった有害物質をろ過して取り除く役割を担っています。
また、リンパ管にはリンパ球を含むリンパ液が流れています。細菌やウイルスなどの異物が侵入してくると、異物と戦うためにリンパ球が増えて、リンパ節が腫れます。
このリンパ節が腫れている状態のことを医学的に「リンパ節腫脹」と呼びます

リンパ節腫脹の疫学
リンパ節腫脹の多くは「リンパ反応のひとつ」として起こっています。一般的に、30歳未満のリンパ節腫脹の約80%は「良性」で、50歳以上では40%程度となり、高齢になると逆に「悪性」が多くなります。
すぐに受診した方が良いリンパ節の腫れ
次のような様子がありましたら、すみやかに医療機関を受診することをおすすめします。
- 激しく痛む
- 腫れの大きさが2cm以上ある
- リンパ節から膿が出ている
- リンパ節が硬く感じられる
- 原因不明な体重減少がある
- 発熱や異常な寝汗など全身症状がある
- 鎖骨上リンパ節が腫れている
- 3~4週間経っても、リンパ節の腫れが小さくならない
リンパ節腫脹の原因
リンパ節腫脹の原因は、次の2つに分けられます。
- 細菌・ウイルス感染による炎症(反応性)
良性疾患がほとんどで、急な首の腫れや痛み・発熱を伴うことが多いです。
リンパ節炎、伝染性単核球症、風しん、亜急性壊死性リンパ節炎など - 悪性腫瘍
痛みを感じることは少ない一方で、首の腫れが徐々に大きくなる特徴があります。
悪性リンパ腫、がん(口腔・鼻、咽頭、喉頭、食道、甲状腺)など
リンパ節腫脹を引き起こす病気
リンパ節腫脹を引き起こす病気には、以下のようなものがあります。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
リンパ節炎
ひとつまたは複数のリンパ節が炎症を起こした状態で、首やあごの下、耳の後ろなどのリンパ節で起こりやすいです。ほとんどが急性咽頭炎、扁桃炎、虫歯などからの急性炎症ですが、咽頭炎や扁桃炎が慢性化するとリンパ節炎も慢性化することがあります。
他に、原因不明で高熱が1週間以上続く「組織球性壊死性(亜急性壊死性)」、結核ウイルスが原因となる「結核性」があります。
【主な症状】
- 痛み
- 圧痛
- リンパ節の腫れ(首、あごの下、耳の後ろ)
リンパ節の腫れは1cm程度の大きさです。
【原因】
細菌・ウイルス・真菌などの病原体への感染
組織球性壊死性リンパ節炎(亜急性壊死性リンパ節炎)
怖そうな名前が付いていますが、良性のリンパ節炎です。
原因不明の高熱と首のリンパの腫れが特徴的であり、東洋人の20代~40代の女性に比較的多い疾患です。発見した医師の名前から、別名「菊池病」とも呼ばれます。
治療に1か月~3か月とやや時間がかかりますが、解熱鎮痛薬やステロイドなどをきちんと使うことで次第に腫れは落ち着きます。
【主な症状】
- 発熱
38℃くらいの高熱が1週間以上続きます。 - 痛み
- 圧痛(押すと痛む)
- 頸部リンパ節の腫れ(8割は片側)
ほかに、発疹、体重減少、嘔吐、腹痛、関節痛などが起きることもあります。
【原因】
今のところ、原因は明らかになっていません。
伝染性単核球症
伝染性単核球症はEBウイルスの感染によって発症します。別名「キス病」とも呼ばれ、感染者とのキスを介して感染します。乳幼児期の初感染では不顕性感染(感染したが明確な症状が現れない、または軽い症状で経過すること)となるケースが多い一方で、思春期以降に感染すると、伝染性単核球症を発症することが多くなります。
【主な症状】
- 発熱
38℃以上の高熱となる場合もあります。 - 咽頭扁桃炎
- リンパ節の腫れ
- 倦怠感
ほかに、肝臓・脾臓の腫れが現れることもあります。
※症状の出現には個人差があり、全てが現れるわけではありません。
【原因】
EBウイルスへの感染が大半です。
ほかに、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、トキソプラズマ原虫、ヒトヘルペスウイルス6型などが原因菌となることもあります。
【潜伏期間】
4週間~6週間
風しん
3日程度の発熱、全身の発疹、耳の後ろ・首の後ろのリンパ節の腫れが特徴的です。別名「3日はしか」と呼ばれますが、「はしか」と比べて、比較的症状は軽く、発疹の色素沈着を残しません。ただし、大人になってから感染すると、関節痛が強く出ます。
なお、風しんは学校感染症第二種に定められているので、発疹が消えるまで出席停止となります。
また、妊娠前期の妊婦さんが感染すると、お腹の赤ちゃんが先天性風しん症候群(CRS)*1になる可能性があります。「風しんワクチン」が予防法となりますが、かつてワクチン接種が女子のみだった時代があります。現在、会社勤めされている世代の男性の多くでワクチン未接種であることが想定されているため、注意が必要です。
*1先天性風しん症候群:生まれてくる赤ちゃんに先天性心疾患、白内障、難聴といった病気を引き起こします。
【症状】
- 発熱
- 全身の発疹
発疹同士はくっつかず、平面的で均一です。色素沈着は残しません。 - リンパの腫れ(耳の後ろ、首の後ろ)
【原因】
風疹ウイルスへの感染
【潜伏期間】
3週間前後
【感染経路】
飛沫感染
悪性リンパ腫
腫瘍化したリンパ球が全身のリンパ節を壊して進行する病気で、血液のがんの一種です。リンパ節の腫れ以外に、発熱・寝汗・体重減少などを伴います。
【症状】
- リンパ節の腫れ
首以外に脇の下、足の付け根などのリンパ節も腫れることがあります。 - 発熱
- 寝汗
- 体重減少
【原因】
EBウイルス、ピロリ菌、関節リウマチなどの自己免疫疾患、薬剤、化学物質の暴露などが発症要因としてありますが、原因不明である場合も少なくありません。
転移性リンパ節(リンパ節転移)
悪性腫瘍(がん)が首のリンパ節に転移することでもリンパ節が腫れます。
転移性リンパ節では、リンパ節は「硬いしこり」として触れやすくなりますが、リンパ節炎のような痛みがないのが特徴です。
転移性リンパ節の治療は、抗がん剤を中心に放射線治療・リンパ節摘出術など悪性腫瘍の治療の一環として行います。
【症状】
- 硬いしこり
段々と大きくなっていきます。
【原因】
悪性腫瘍のリンパ節転移
リンパ節腫脹の検査と診断
- 問診・視診・触診
いつから腫れているか、痛みがあるか、最近けがをしたかなど、自覚症状について詳しくお伺いします。また、リンパ節の大きさ、硬さ、リンパ節が動くかなどを観察し、触って確認します。 - 超音波検査(エコー検査)
エコー検査で、腫瘍の有無や患部の状態を詳しく調べます。
(画像)当院の超音波診断装置 - 血液検査
細菌・ウイルスの感染、自己抗体の値などを調べます。 - 生検
リンパ腫が疑われる場合や、リンパ節の腫れが3週間~4週間経っても消失しない場合に行います。
細胞を採取して、病理検査で組織を調べます。
(生検が必要な場合は病院へご紹介させていただきます。)
そのほか、必要に応じてCT検査・MRI検査などを行うことがあります。
リンパ節腫脹の治療
リンパ節腫脹は、原因疾患に合わせた治療を行います。
炎症性では、薬物療法が基本となります。
一方、悪性疾患が原因の場合には、リンパ節切除手術や抗がん剤治療といった悪性腫瘍に対する治療を進めていきます。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
薬物療法
炎症が原因の場合には、主に抗生剤や抗炎症剤を使用します。
亜急性壊死性リンパ節炎では、短期間のステロイド内服がよく効きます。
また、当院は西洋医薬と併用して、「漢方治療」を行っています。
リンパ節炎などには「小柴胡湯(しょうさいことう)」「葛根湯(かっこんとう)」、扁桃炎などには「桔梗湯(ききょうとう)」「荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)」を処方しています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている「医療用漢方製剤」なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。
外科的処置
リンパ節炎でも、腫瘍となって膿が溜まることがあります。その場合には、外科的に膿を出す処置(排膿)が必要となります。
院長からのひとこと
「ある日、首を触っていて、しこりに気づく」というのは、よくあることです。もし、しこりに気づいて心配になったら、お気軽にご相談ください。





