「甲状腺腫瘍(こうじょうせんしゅよう)」は、首の真ん中あたりにある蝶のような形をした小さな臓器「甲状腺」にできる腫瘍(できもの)の総称です。
甲状腺腫瘍は、「良性」の腺腫・のう胞などと、「悪性」のがんに分けられますが、ほとんどは「良性」です。腫瘍がある程度の大きさになるまでは、ほとんど自覚症状がないので、ご自身で甲状腺の腫瘍に気づきにくい特徴があります。しかし、近年では人間ドックなどの普及によって、腫瘍が小さい段階で発見されるケースも増えています。
腫瘍が大きくなると、首の真ん中あたりの腫れ・しこりが分かりやすくなったり、食事の際に違和感が現れたりするようになります。
首の腫れ・しこりなど気になることがある場合には、お気軽に当院までご相談ください。
甲状腺とは?
甲状腺は、首の真ん中にある喉仏(のどぼとけ)のすぐ下にあり、縦横5cm前後の大きさをした臓器です。身体の正面から見ると、蝶が羽を広げたような形をしており、男性と比べると、女性の方が少し高い位置にあります。

甲状腺の役割
甲状腺は「甲状腺ホルモンの分泌」という重要な役割をしています。
甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝や細胞の成長を促進させる、脈拍数・体温・自律神経を調節してエネルギー消費を一定に保つ、という生命活動において重要な役割をしています。
甲状腺腫瘍の疫学と分類
甲状腺に、できものができることを「甲状腺腫瘍」と呼びます。
甲状腺腫瘍は、成人女性に多くみられる病気です。
甲状腺腫瘍は「良性」「悪性」に分かれ、代表的な病気には次のようなものがあります。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
- 良性
臨床的に発見される甲状腺結節の約90~95%は良性です。
【代表的な病気】
腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)、甲状腺濾胞腺腫(こうじょうせんろほうせんしゅ)、甲状腺のう胞 - 悪性
甲状腺腫瘍のうち、悪性の割合は約5~10%です。
患者さんの男女比を見てみると、1:3*1と女性に多い病気です。
*1(参考)甲状腺がん患者数(がん統計)|がん情報サービス
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/24_thyroid.html#anchor1
【代表的な病気】
乳頭がん、濾胞がん(ろほうがん)
代表的な良性の甲状腺腫瘍
腺腫様甲状腺腫
甲状腺に1個~数個のしこり(結節)ができる病気で、首のしこり・腫れ以外の症状は現れません。また、ほとんどの腺腫様甲状腺腫瘍は大きくならず、まれに縮小するケースがあります。
なお、腺腫様甲状腺腫は「腺腫様」という腫瘍のような腫れがみられますが、腫瘍ではなく「過形成」による結節性病変です。
【原因】
直接的な原因は「甲状腺の細胞の増殖(過形成)」ですが、増殖原因については分かっていません。遺伝性の場合もあります。
【治療法】
すぐに治療する必要はありませんが、しこりが大きくなっていくケースがあるので、しこりの数・大きさなどを半年~1年毎に定期観察していきます。
甲状腺濾胞腺腫(こうじょうせんろほうせんしゅ)
濾胞腺腫は日本人にも比較的多くみられる良性腫瘍です。
甲状腺に「しこり」ができますが、痛みはなく、ゆっくりと大きくなっていきます。
超音波検査や細胞診では濾胞腺腫と濾胞がんの鑑別は困難です。
そのため、「腫瘍が3cm以上の大きさである」「徐々に大きくなっている」など、濾胞がんの可能性が疑われる場合には、診断・治療を兼ねて手術を検討します。
【原因】
原因不明
【治療法】
濾胞性腫瘍(濾胞腺腫・濾胞がんの総称)が疑われるときは、手術を検討します。
甲状腺のう胞
甲状腺の中に液体が溜まった袋状の「のう胞」ができる病気です。小さい間は触っても分からず、ある程度大きくなると硬いしこりを感じることができます。
基本的に痛みはありません。
【原因】
腺腫様甲状腺腫・濾胞腺腫の内部で変性・出血が起こります。
【治療法】
基本は、注射器でのう胞内の液体を吸引して腫瘍を小さくする「穿刺排液」を行います。
ただし、排液後に再度液体が溜まる場合には、少量のエタノールをのう胞内に注入して破壊する「エタノール注入療法(PEIT)」を行う場合があります。PEITは比較的安全な治療法ですが、まれに頸部痛・発熱・一過性の声のかすれなどを生じることがあります。
代表的な悪性の甲状腺腫瘍
近年、甲状腺がん患者さんが増加傾向にあります。
健康診断などで超音波(エコー)検査により「甲状腺のしこり」が発見しやすくなったことが、発見率の増加要因のひとつと考えられています。
乳頭がん
乳頭がんは甲状腺がん全体の約90%を占めます。
「乳頭」という名前が付いていますが、胸とは関係なく、がん細胞の形が乳頭に似ていることに由来しています。
乳頭がんは進行が緩やかで、しこりや違和感などの自覚症状が出る前に、健診や偶然のエコー検査で見つかることが多いです。
比較的早い時期から首のリンパ節へ転移しやすく、ごく稀に肺・骨へ転移する場合があります。ただし、リンパ節転移後もゆっくり進行するため、治療により治ることが多い傾向があります。
しこりのみで、痛みはありませんが、腫瘍が大きくなってくると、違和感、痛み、飲みこみにくさ、声のかすれといった症状が現れてくることがあります。
【原因】
原因不明
【治療法】
基本は摘出手術です。ただし、がんが1cm以下の微小がんの場合はひとまず経過観察で様子を見て、進行してくるようであれば手術を検討します。
悪性度が高い、遠隔転移などがある場合には、放射線治療を行うことがあります。
濾胞がん(ろほうがん)
濾胞がんは甲状腺がんの5%~8%を占め、乳頭がんの次に多い甲状腺がんです。
病理検査以外の検査で、良性の濾胞腺腫と濾胞がんを鑑別することは難しい特徴があります。そのため、超音波検査・血液検査・細胞診から、がんの可能性が高いと診断された場合には、切除手術で腫瘍を切除して、その組織で病理検査を行い最終診断とします。
自覚症状はなく、大きくなっても首のしこりを感じる程度です。
【原因】
原因不明
【治療】
濾胞がんでは、片葉切除か全摘出を行い、悪性度や進行度に応じて放射性ヨード治療を行います。
甲状腺腫瘍の検査と診断
- 問診・視診・触診甲状腺腫瘍の大きさ、硬さなどを詳しく観察し、触って確認します。
- 超音波検査(エコー検査)超音波検査は超音波プローブを身体の表面に当てて、臓器から反射した超音波を画像化します。腫瘍の有無、大きさなど詳しく調べることができます。

(画像)当院の超音波診断装置
- 血液検査
甲状腺ホルモン、甲状腺から出るタンパク質(サイログロブリン)などの値を調べます。
甲状腺腫瘍では、良性・悪性どちらでもサイログロブリンが上昇します。
- 穿刺吸引細胞診
腫瘍に採血で使われるような細い針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で良性・悪性を調べます。
実際の診断では、超音波検査に加えて血液検査(甲状腺ホルモン、サイログロブリン値など)、細胞診(穿刺吸引細胞診:FNAC)を組み合わせて診断します。
そのほか、必要に応じてCT検査・MRI検査などを行うことがあります。
甲状腺腫瘍の治療
甲状腺腫瘍の治療法は、一般的に良性の場合は経過観察、悪性の場合は手術が基本となります。
ただし、良性でも腫瘍が大きいなどの理由で、手術を検討することもあります。
※必要に応じて、専門の対応病院をご紹介します。
経過観察
次のような甲状腺腫瘍の場合には、すぐに治療を行わず、定期的な経過観察を行います。
- 良性腫瘍で病変が小さい場合
- 悪性でも1cm以下の乳頭がん(微小乳頭がん)の場合
経過観察中でも、腫瘍が徐々に大きくなる、あるいは新たな悪性所見がみられることがあります。
そのため、半年~1年ごとの定期的な超音波検査などによるフォローアップが重要です。
外科的手術
以下のような場合には、外科的手術による治療を行います。
※必要に応じて、専門の対応病院をご紹介します。
- 1cm以上の乳頭がん
- 乳頭がん以外の甲状腺がん(濾胞がん、未分化がん、髄様がんなど)
- 良性腫瘍でもサイズが大きい場合
手術には甲状腺部分切除(葉切除)や甲状腺全摘術、リンパ節郭清(りんぱせつかくせい)などがあり、腫瘍の大きさや進行度に応じて手術範囲を決定します。術後は、甲状腺ホルモン剤によるホルモン補充や再発予防、またビタミンD製剤の服用が必要となることがあります。
術後経過に応じて、血液検査や超音波検査を定期的に行い、ホルモンバランスや再発の有無を確認します。
院長からのひとこと
前頸部が腫れてきた時、しこりができている時は、甲状腺腫瘍かもしれません。当院では超音波エコーを備えていますので、お気軽にご相談ください。





