「鼻出血(びしゅっけつ)」とは医学的名称で、いわゆる「鼻血」のことです。
鼻血は誰でも一度は経験する一般的な症状のひとつですが、10代以下の子どもと60代以上の高齢者に多くみられる症状です。
ほとんどの鼻血は、鼻の入り口付近(キーゼルバッハ部位)からの出血となるため、基本的に心配ありません。鼻の入り口付近には血管がたくさんあるため、「鼻をぶつける(外傷)」以外にも「のぼせる」「いじる(ほじる)」など、些細なことがきっかけで出血します。
よく鼻血を出すお子さんでは、鼻の病気が原因となっていることでかゆみを感じやすく、ついつい鼻をいじってしまうため出血する傾向があります。
また、大人でも乾燥やお薬の影響、鼻の中の腫瘍などが原因となり、鼻血が出やすくなることがあります。
もし鼻血が出たら、通常、鼻の小鼻を5分~10分くらい圧迫していれば、ご家庭でも簡単に止血できます。
しかし、「10分以上圧迫しても、血が止まらない」「よく鼻血を繰り返す」といった症状がある場合には、鼻の病気や全身疾患が原因となっている、大きな血管から出血しているなどの可能性もあるため、耳鼻咽喉科での処置や詳しい検査が必要となります。すみやかに耳鼻咽喉科をご受診ください。
鼻出血の原因
鼻血の主な原因は「鼻粘膜下の血管が破れること」ですが、それ以外にも様々な要因があります。
キーゼルバッハ部位の毛細血管の破れ
鼻血の原因の7割~8割を占めるのが、「キーゼルバッハ部位」の血管が破れて出る出血です。キーゼルバッハ部位は、鼻の中を左右に分けている仕切り「鼻中隔(びちゅうかく)」の入り口付近にあります。空気の乾燥などの刺激を受けやすい上、毛細血管がたくさんある部位なので「外傷」はもちろん、アレルギー性鼻炎や急性鼻炎・副鼻腔炎(ふくびくうえん)などの炎症により鼻がムズムズして、鼻をいじってしまい出血するケースもよくあります。
出血の要因となる疾患
次のような病気が原因となり、出血しやすくなっている場合もあります。
- 鼻腔・副鼻腔の腫瘍(できもの)
鼻の中にできる「鼻腔がん」、鼻腔周辺にある空洞にできる「副鼻腔がん」の共通症状の一つに「鼻血」があります。また、血管腫・血瘤腫などの良性腫瘍でも鼻血を繰り返します。 - 高血圧
血圧が高いと出血しやすくなります。また、出血の勢いが強いため、止まりにくくなります。 - 糖尿病
血糖値が高い状態(高血糖状態)が続くと、血管が脆くなります。循環器疾患を合併しているケースも多いので、より鼻血が出やすくなります。 - 肝臓・血液の病気
正常な肝臓では、血液を固める作用のある「凝固因子」が作られています。しかし、肝硬変などにより肝機能が低下すると、凝固因子が作られなくなっていくため、鼻血が止まりにくくなります。また、凝固因子が生まれつき不足・欠乏している「血友病」や、血小板が少なくなる「白血病」でも、同じように鼻血は止まりにくくなります。 - オスラー病
「遺伝性出血性毛細血管拡張症」とも呼ばれます。全身の血管に奇形が起こり、出血症状が現れる遺伝性疾患です。中でも、繰り返す鼻血が一番多く現れる症状です。
薬の影響
心筋梗塞・脳梗塞などの治療のために、血液をサラサラにして血栓を予防するお薬(抗血栓薬)を服用している場合、鼻血が止まりにくくなります。
動脈からの出血
鼻粘膜の中には、キーゼルバッハ部位以外にも様々な動脈が通っています。
鼻腔の後方にある「蝶口蓋動脈(ちょうこうがいどうみゃく)」からの出血では、大出血になります。さらに、副鼻腔のひとつ「蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)」に隣接する「内頚動脈(ないけいどうみゃく)」からの出血でも大出血がみられ、命に関わることがあります。
子どもと大人の鼻出血の違い
鼻血は誰でも一度は経験したことがある、よくある症状ですが、実は子どもと大人では出血の原因が異なっています。
子どもの鼻出血の特徴
お子さんがよく鼻血を出すので「何かの悪い病気?」と心配されていらっしゃる親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、お子さんの鼻血の多くは「心配ない鼻血」です。
お子さんの鼻血の特徴は、次の通りです。
- 大人と比べて、鼻の粘膜が弱いので、簡単に出血する
10代以下(特に幼児~小学校低学年)の子どもは、大人と比べて、鼻の粘膜が弱いので、ぶつけたり(外傷)、少しのぼせたり鼻をほじったりすることで、簡単に出血します。また、季節に関係なく、鼻血が出ます。 - 子どもの鼻血の多くは、基本的に治療不要
お子さんの鼻血の多くは、左右の鼻を分けている仕切り(鼻中隔)の粘膜、特に入り口から1cm程度奥にある「キーゼルバッハ部位」からの出血です。キーゼルバッハ部位の血管は、網目状になって表面に浮き出ているため、軽い刺激で出血しやすいのです。なお、キーゼルバッハ部位からの出血では鼻の外の方に出てくる鼻血なので、心配ありません。たくさん血が出ているように感じますが、正しく止血すれば、10分程度で簡単に止まるため、基本的に治療は不要です。 - 頻繁に鼻血が出る場合には「鼻の病気」が一因となっている
「よく鼻血を出す」お子さんでは、出血の背景にアルギー性鼻炎・副鼻腔炎・風邪による急性鼻炎など鼻の病気が隠れている場合があります。鼻の炎症により、かゆみを感じるため、頻繁に鼻をいじって(ほじって)しまい、出血します。また、鼻血が止まった後できる「かさぶた」も、お子さんにとっては鼻の中がムズムズするきっかけとなり、さらに鼻をいじって鼻血が出てしまうという悪循環に繋がります。
鼻の病気の治療を行えば、鼻血が出やすい状況の改善が期待できます。耳鼻咽喉科にて鼻の中の状態を診てもらうことをおすすめします。
お子さんの鼻血でご心配なことがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。
大人の鼻出血の特徴
実は鼻血で注意したいのは、子どもよりも大人です。
大人の鼻血の特徴は、次の通りです。
- 高齢者や、空気が乾燥する季節・寒暖差の大きい季節(12月頃~3月頃)では鼻血が出やすい
大人でも60歳以上のご高齢の方や、空気が乾燥する時期や寒暖差が大きい季節(12月頃~3月頃)では鼻血が出やすくなります。 - 全身疾患・腫瘍などが原因となっている場合もある
大人の鼻血では鼻粘膜が傷つくこと以外に、高血圧・糖尿病・肝臓の病気などの全身疾患や、抗血栓薬・抗血小板薬といった薬の服用、妊娠・月経、鼻の中の腫瘍が血管の脆さ・出血の止まりにくさを引き起こすことで、鼻血に繋がっているケースがあります。
特に高血圧・糖尿病などの持病がある方は、鼻の奥の動脈からの大量出血を起こす場合があります。
頻繁に鼻血が出る方、なかなか止まらない方は、専門的な処置を必要とするため、すみやかに耳鼻咽喉科をご受診ください。
正しい鼻血の止め方
鼻血のほとんどはキーゼルバッハ部位からの出血であり、たくさん出ているように見えますが、出血量はそれほど多くなく、命にかかわる量ではないので、心配ありません。
落ち着いて対処すれば、5分~10分程度で簡単に止まります。
- うつむき加減で椅子に座る/頭をやや高くし、横を向いて寝た姿勢を取る
- 鼻の小鼻(左右の膨らみ部分)を親指と人差し指で、10分ほどしっかりつまむ(強く押さえたままにする)
<正しい鼻血の止血方法のポイント>
- まずは落ち着く
興奮すると、血圧が上がり、血流が増すため、余計に止まりにくくなります。
周りの方も落ち着きましょう。 - 上は向かず、下を向く
上を向いたり首をトントンたたいたりする行為はNGです。上を向くと、喉に血が流れて止まりにくくなったり、喉に流れた血が固まり血栓になって窒息したりする恐れがあります。また、血を飲み込むと、胃で刺激となり、気持ち悪くなります。 - 喉に流れてきた血は、口から吐き出す
窒息や嘔吐の原因になります。座るのがつらい場合には、横向きに寝て、仰向けにならないようにして、血が喉に流れてきたら、吐き出しましょう。 - ティッシュ・脱脂綿を詰めることは推奨されていない
ティッシュなどを鼻に詰めると、粘膜を傷つける恐れがあるため、基本的には何も入れないで圧迫した方が早く止血できます。もし詰める場合には、少し湿らせた脱脂綿を入れ、「止血できた」と思ってから20分~30分程度抜かないようにすると良いでしょう。
耳鼻咽喉科での鼻出血治療と検査
鼻血でご来院された場合、まずは「止血処置」を優先します。
問診や内視鏡から、鼻の中の状態・出血部位を確認して、次のような方法で止血を行います。
止血処置
- 軟膏
軽症であれば、軟膏を付けて止血します。 - 止血剤(血管収縮薬)を染み込ませたガーゼなどを詰めて圧迫
出血量が多い場合や繰り返している場合には、止血剤を染み込ませたガーゼ・脱脂綿などをキーゼルバッハ部位に詰めて、前かがみの姿勢で圧迫し止血します。 - 電気メスやレーザーで粘膜を焼く
なかなか鼻血が止まらなかったり、よく鼻血を繰り返したりしている場合には、電気メス・レーザーで出血した部位を焼いて、止血する治療を行います。
また、動脈からの大量出血時には、全身麻酔下で動脈を止める(クリッピング)手術が必要となることもあります。
※必要に応じて、対応する基幹病院をご紹介します。
鼻出血の検査
一般的な鼻血(キーゼルバッハ部位からの出血)であれば、特別な検査は必要ありません。
原因の調査などは、止血後必要に応じて行います。
- 問診
鼻血がどんなときに出やすいか、どのくらいの頻度で出ているか、いつ頃から出ているのか、量など詳しくお伺いします。 - 鼻腔内視鏡検査(ファイバースコープ)
細い内視鏡カメラを使って、鼻の奥を観察します。
内視鏡検査は数分で終わります。多少の違和感は、痛みはほとんどありません。 - 血液検査
出血量が多い、何度も出血を繰り返すなど、血液の病気が疑われるときに実施することがあります。 - CT検査
腫瘍・副鼻腔炎などの病気が疑われる場合に実施することがあります。
よくある質問
病院に行った方が良い「危険な鼻血」を教えてください。
10分程度安静にして、しっかり小鼻を圧迫していれば、鼻血は簡単に止まります。
ただし、次のような様子が見られたら、「危険な鼻血」と考えられますので、すぐに耳鼻咽喉科や救急病院を受診してください。
- 応急処置(小鼻の圧迫)を20分以上行っても、鼻血が止まらない
- 鼻の奥から喉に鼻血が大量に垂れこんでいる
キーゼルバッハ部位からの鼻血では、通常、喉の方まで血が流れていきません。
危険な鼻血を見分ける指標のひとつです。 - 明らかに出血量が多い
下を向いて小鼻を抑えても、鼻から血があふれて喉の方に流れる場合は、出血量が多いので注意が必要です。 - 発熱がある
鼻血に加えて、発熱がある場合には、非常に活発な血液疾患の可能性があります。一気に全身状態が悪くなることがあるため、すみやかに医療機関をご受診ください。 - 身体のどこかにあざができている
- 歯ぐきなど鼻以外からも出血が見られる
特に抗血栓薬(ワーファリン・イグザレルトなど)や抗血小板薬(アスピリン)を服用されている方で鼻の奥にある動脈からの出血した場合、服用されていない方に比べて出血スピードが速いので、危険な貧血に陥りやすいことがあります。
朝起きたら、布団に鼻血が付いていました。心配です。
意外かもしれませんが、鼻血は夜に出やすい傾向があります。
これは、眠っているときやリラックスしているときなどに自律神経の副交感神経が優位になり、血管が拡張しやすくなることが要因のひとつと考えられています。また、アレルギー性鼻炎の中でも「ダニアレルギー(ハウスダストアレルギー)」がある方は、布団の潜んでいるダニによってアレルギー反応が出て、鼻がかゆくなり、寝ている間に無意識に鼻をいじったり触ったりして、鼻血が出ている可能性があります。
この場合には、アレルギー性鼻炎をしっかり治療することで、鼻血予防に繋がります。
いずれにせよ、朝起きたら鼻血が出ていた形跡が何度もあるときには、耳鼻咽喉科で鼻の状態を診てもらうと良いでしょう。お気軽にご相談ください。
院長からひとこと
鼻出血は日常よくある症状ですが、いきなり鼻血が出て止まらないときは焦ります。上に書いてあるように鼻血の出ている鼻の上からタオルなどを当てて、しっかりと5〜10分押さえてください。ティッシュを入れると、引き抜くときに再出血しやすくなります。「鼻血の量が多かった」「繰り返していて心配」というときは、いつでもご相談ください。