アレルギー性鼻炎でよく見られる、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの症状は、身体が異物(=アレルゲン)を体外に排出しようとする抗原抗体反応(アレルギー反応)として、起こっています。
アレルギー性鼻炎の治療では、主に薬物療法やレーザー治療による、一時的に鼻炎症状を抑える対症療法が行われていますが、ほかに根治が期待できる治療法として「アレルゲン免疫療法(皮下免疫療法・舌下免疫療法)」があります。

中でも「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」は、基本的に自宅で行える治療です。
3~5年間毎日1回、少量のアレルゲンエキスを舌の裏に投与して体を慣らし、アレルギー反応を起こしにくくする効果が期待できます。2014年に保険適用となり、2018年からはお子さんの治療も承認されました。
「舌下免疫療法」は、現在のところ「ダニアレルギー」または「スギ花粉アレルギー」のみ治療対象として承認されているため、治療を始めるには血液検査による確定診断が必要となります。

ダニアレルギーやスギ花粉アレルギーによるつらい鼻炎症状でお悩みの方、薬で症状が抑えられない方、舌下免疫療法にご興味をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

アレルゲン免疫療法について

アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を毎日少しずつ体内に投与することで、アレルゲンに反応しない体質へ改善することが期待できます。
現在、日本国内で治療できるアレルゲンは、「ダニアレルギー」と「スギ花粉アレルギー」のみです。

長らく日本では注射によってアレルゲンを取り込む「皮下(ひか)免疫療法」が行われておりましたが、注射の痛みや副作用、頻繁な通院などが課題となり、あまり普及しませんでした。一方、「舌下免疫療法」は、痛みがなく、通院の回数も少なくて済むことから、今後は徐々に普及していくものと思われます。
舌下免疫療法について
アレルゲン免疫療法の1つで、ダニ抽出エキスまたはスギ花粉エキスが入った薬を舌の裏(舌下)に1~2分ほど置いてから、飲み込みます。
舌の裏には毛細血管があるため、すぐ飲み込むよりも多くの有効成分を体内に取り込むことができます。

舌下免疫療法の特徴

舌下免疫療法は、皮下免疫療法に比べて、次のような特徴があります。

  • 通院頻度が少ない
    ※基本的に自宅で治療を行います。ただし、治療初回とその1週間後、その後は月1回の通院が必要です。
  • 注射部位に起こる副作用(痛み・腫れなど)が無い
  • アナフィラキシーショックなど重篤な副作用の頻度が低い

舌下免疫療法に向いている人

  • 薬物療法やレーザー治療だけでは症状を抑えられず、日常生活に支障がある方
  • 薬を止めると、症状が悪化する方
  • 薬の量を少しでも減らしたい方
  • 将来にわたって、アレルギー性鼻炎の症状に悩むのが心配な方
  • 薬を飲むと、眠気などの副作用が出てお困りの方
  • この先、数年の妊娠の予定はないが、妊娠した際に薬が飲めなくなるのが心配な方
  • 受験の時期と花粉症の時期が重なるので、少しでも症状を和らげておきたい方
  • 毎日コツコツと服用を続けられる方

舌下免疫療法を受けられない人

  • 重い心臓病の方
  • 重症の気管支喘息の方
  • がん治療中の方
  • 妊娠中・授乳中の方や、近年中に妊娠を予定している方
  • 免疫抑制剤を使用されている方
  • ステロイド内服薬を常用されている方
  • 高血圧などでβ遮断薬を服用されている方

※気管支喘息の方でも、薬で喘息症状が出ていない場合は治療可能です。

※β遮断薬を服用されている方でも、お薬を変更すれば治療可能です。

舌下免疫療法の注意点

  • アレルギー反応を起こす物質(アレルゲン)を服用するので、アレルギー反応がでることがある
  • 治療期間が長期間(3~5年程度)となる
  • 薬剤を飲み込んでから5分程度は、うがい・飲食を避ける
  • 服用前後2時間は、激しい運動・入浴・アルコール摂取など血流や血圧の変動があるような行動を避ける

舌下免疫療法の治療開始時期

血液検査でダニアレルギーまたはスギ花粉アレルギーと確定後、治療を開始します。

  • ダニアレルギーの舌下免疫療法:いつでもスタートOK
    体調の悪いときやダニアレルギー症状が出やすい時期(梅雨時・秋口)の開始は避けた方がよいでしょう。
  • スギ花粉アレルギーの舌下免疫療法:花粉症オフシーズン(5月~12月)
    身体が過敏に反応しやすくなる花粉症シーズン直前や最中(1月~4月末頃)には開始できません。
  • 舌下免疫療法で使用する治療薬
    ダニアレルギーの舌下免疫療法で使用する治療薬:ミティキュア
    唾液で溶ける錠剤で、ヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニが50%ずつ含まれています。服用量は導入期・維持期ともに一定であり、舌下保持時間(舌の下に薬を置いておく時間)は約1分です。
  • スギ花粉アレルギーの舌下免疫療法で使用する治療薬:シダキュア
    唾液で溶ける錠剤です。服用量は導入期・維持期ともに一定であり、舌下保持時間(舌の下に薬を置いておく時間)は約1分です。

舌下免疫療法の検査・治療の流れ

1
問診と視診
自覚症状以外にも、他のアレルギー性疾患の有無、家族のアレルギー歴、などについて詳しくお伺いします。過去にアレルギー検査を受けたことがある方は検査結果を、また現在お薬を服用中の方はお薬手帳をご持参ください。

2
血液検査
舌下免疫療法を開始するには、血液検査によるダニアレルギー・スギ花粉アレルギーの確定診断が必要となります。
血液検査では、アレルゲンに反応する抗体「特異IgE抗体」の量を測定します。検査結果が分かるには約1週間かかります。
なお、過去2年以内に他院でアレルギー検査をして、検査結果をお持ちいただける方は、上記の検査は不要となります。

3
初回投与(病院で服用)
血液検査でダニアレルギー・スギ花粉アレルギーが確認され、舌下免疫療法の適応がある場合には、治療を開始します。

初回のみ、重大な副反応が出ないかを確認するため、病院内で医師の確認のもと1回分を服用します。服用後約30分、病院内でお待ちください。
※初回は服用後の待機時間も含め、1時間程度かかることをご承知ください。
※初回内服時の受付時間は、午前11時半まで、午後17時45分までとさせていただきます。

4
2回目以降の投与(自宅で服用)
2回目以降は、原則ご自宅にて1日1回服用いただきます。
内服開始当初は副作用があった際に対処できるよう、できるだけ体調の良い時間帯や家族など人がいる場所で服用するようにしてください。

5
定期通院(2週間毎~1か月毎)
治療開始から1週間後に、薬の初回量から維持量への増量のため1度通院していただき、副作用などのチェックを行います。
服用量も一定となる維持期に入り、治療が落ち着いてきたら、1か月毎の通院となります。
※薬剤や症状により、通院間隔は異なります。内服開始後、鼻症状が強くなった方や、口腔違和感など軽度の副作用が発現した方の場合、落ち着くまで通院回数が増える場合もあります。

よくある質問

舌下免疫療法は、子どもや高齢者でも行えますか?

舌下免疫療法は年齢制限なく、お子さん(5歳以上)でも治療いただけます。
しかし、事前に採血検査が必要ということ、舌の裏にしばらく薬を置いてから飲み込むこと、治療前後2時間程度は激しい運動を避けることなど、注意すべき点があるため、治療上の理解から当院では小さいお子様の場合は、保護者の方とご相談させていただいて決定しております。
幼児の方でご検討の場合、まずはご相談ください。

また、65歳以上の高齢者についても適応外ではありませんが、年齢が高くなるほど免疫療法が有効となる方の割合が少し減ってしまうという調査結果が報告されています。
まずはご相談ください。

舌下免疫療法による副作用はありますか?

アレルギーをお持ちの方が、あえてアレルゲンを体内に取り込む治療なので、アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用が起こる可能性もゼロではありません。しかし、日本よりも以前から治療が行われていた海外においても、重篤な副反応は極めて稀です。(傾向として、重篤な副作用は摂取直後に見られます)

軽い副作用は、治療開始から1〜2か月後くらいまでに出やすく、口の中のかゆみ・イガイガするような違和感・腫れなど、口に関する副作用が多く見られます。
また、くしゃみ・鼻水・鼻づまりといった鼻炎症状が一時的にひどくなることもあるので、その際には、抗ヒスタミン薬などを併用します。
多くの場合、短時間で落ち着き、1~2週間も経てば副作用は出にくくなります。

治療効果はすぐに出ますか?また、効果はどのくらい続きますか?

舌下免疫療法は、過剰に反応するアレルギー体質に対して、長い時間をかけて少しずつ反応しづらい体質に変えていく治療で、推奨される治療期間は3~5年です。
正しく治療を行えば、鼻炎症状が軽くなって薬の量を減らせたり、治療終了後7~8年程度、薬を服用しなくても鼻炎症状を抑えることができたりする可能性もあります。
当院では、治療開始から1~2年で一度効果測定を行い、効果が確認できれば継続し、合計4~5年間の治療をおすすめしています。

また、日本アレルギー学会によると、舌下免疫療法の有効率は、ダニアレルギーで80~90%、スギ花粉アレルギーで70%前後となっていますが、中には無効例も存在すると報告しています。
(参考)スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き(改訂版)P.11|日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/sugi_tebiki16_honmon.pdf

院長からのひとこと

スギ、ダニの舌下免疫療法は、ご自身の体をスギやダニに対して免疫をつけて、アレルギー症状を出にくくさせる治療です。1日1回お薬を口に入れるだけの、ご自宅で続けられる治療です。
ご興味のある方は、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
PAGE TOP