咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)とは、実際には喉が正常であるにもかかわらず、「何かひっかかる感じがする」「異物がある感じがする」「イガイガ・ザラザラする」といった異常を感じる「感覚異常」です。主に強いストレス・不安など精神的な問題が発症要因とされており、「ヒステリー球」という別名もあります。

ただし、喉の異常感の多くは、「喉や喉の周りの病気」が原因となり引き起こされているため、まずは内視鏡(ファイバースコープ)などの検査を行い、考えられる原因を絞ります。そのうえで、十分な検査をしても喉に異常が見当たらない場合を「咽喉頭異常感症」と呼びます。

咽喉頭異常感症では、薬物治療に対する反応から診断を詰めていく「治療的診断」を行いますが、「検査で異常がない」と診断されることで、安心して症状が軽減するケースもあります。
また、当院では咽喉頭異常感症の治療法のひとつとして、身体全体のバランスを整えて自然治癒力を高め、症状を改善させる「漢方薬」の処方も行っております。
喉の違和感など気になることがありましたら、当院までお気軽にご相談ください。

咽喉頭異常感症の特徴

咽喉頭異常感症は、患者数が年々増加傾向にあります。やや女性の方が多くみられ、男性では30代、女性は50代に発症ピークがみられます。

咽喉頭とは?

咽喉頭とは、鼻腔(びくう)や扁桃(へんとう)周辺のいわゆる「ノド」を指し、空気と食べ物の通り道である「咽頭(いんとう)」と、喉の下の方にあり、発声機能を担う声帯を含む空気の通り(気管)の入り口に当たる「喉頭(こうとう)」を合わせた部分のことです。
咽頭は上から上咽頭(じょういんとう)・中咽頭(ちゅういんとう)・下咽頭(かいんとう)に分類されています。

(図)咽喉頭の位置

咽喉頭異常感症の種類

一般的に、咽喉頭異常感症は「咽喉頭の異常感があるが、耳鼻咽喉科で十分に検査をしても異常所見を認めないもの」と定義されています。 しかし、後で原因疾患が発見される場合もあるため、次のように分類されています。

  • 真性咽喉頭異常感症
    十分な検査をしても異常所見が見当たらない場合。
  • 症候性咽喉頭異常感症
    明らかに原因となる疾患が見つかった場合。

咽喉頭異常感症になりやすいタイプ

次のようなタイプの方は、咽喉頭異常感症を発症しやすいとされます。

  • ストレスを溜め込みやすい
  • 真面目
  • 責任感が強い
  • 我慢強い
  • 不安・緊張を感じやすい

咽喉頭異常感症の症状

咽喉頭異常感症の症状は、次の通りです。なお、異常感の程度はあまり変化せず、症状は液体を飲みこむときに違和感が出やすく、反対に固形の物を飲みこむときに違和感が出にくいです。
※症状の現れ方・程度には個人差があります。

  • 喉に何かできている感じがする
  • 喉がイガイガ・ザラザラした感じがする
  • 喉の締め付け感
  • 喉の異物感
  • 喉のかゆみ、違和感

咽喉頭異常感症の原因

「喉に球が詰まっているように感じる」などの症状があると、「身体に原因がある」と誰でも考えることでしょう。しかし、ストレス・強い不安などの影響で自律神経やホルモンバランスが崩れることで、身体に様々な症状を引き起こすというのも、実はよくあることなのです。

精神的な問題

咽喉頭異常感症の原因は、以下のような心因的な問題であることが多いです。

  • ストレス・体調不良
    ストレスにより交感神経の働きが強まり、咽喉頭周囲の筋肉が過剰に収縮して違和感が生じやすくなります。
  • がんへの不安
    不安や緊張状態があると、喉の異常感は起こりやすくなります。そんなときに、何でもない喉の違和感に気づいて、そこから「がんに違いない」と思い込み、強いがんへの不安から余計に喉の違和感が消えなくなってしまうことがよくあります。
  • うつ病
  • 不安神経症

ただし、「原因となる疾患(局所・全身)」によって咽喉頭異常感が生じている場合もあります。特にがんの初期症状として現れていることもありますので、気になった場合には早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
また、原因となる疾患がある場合でも精神的な問題によって症状が悪化することがあります。

原因となる疾患

次のような局所的・全身的疾患によって、喉の異常感が引き起こされている場合があります。

  • 喉の慢性的な炎症性疾患
    咽喉頭炎、扁桃炎、副鼻腔炎など
  • 咽頭・喉頭・食道などの悪性腫瘍(がん)
    飲みこみにくい、体重減少を伴う場合には、がんの可能性もあります。
  • 逆流性食道炎
  • 喉頭アレルギー
  • 甲状腺疾患
    橋本病や甲状腺腫瘍など
  • 脳神経障害
  • 首の骨の異常
    変形性頚椎症や茎状突起(けいじょうとっき)など
  • 貧血
  • 更年期障害
  • 自律神経失調症
  • シェーグレン症候群

咽喉頭異常感症の検査・診断

咽喉頭異常感症は、検査で「原因となる疾患の可能性」を除外することで診断となります。

問診・視診・触診

自覚症状や症状が現れた時期、どのようなときに起こるか、1日の中で症状が変化するかなどについて、詳しくお伺いします。
また、喉の状態の視診、首のリンパ節の触診も併せて行います。

電子ファイバースコープ検査

喉の異常感を引き起こす疾患がないか、咽喉頭内に腫瘍・狭窄はないかなど、極細の電子ファイバースコープ(内視鏡)を使って喉を詳しく観察します。」
耳鼻咽喉科で使用するファイバースコープは、通常の胃カメラと比べて先端が細いので、痛みが少ない特徴があります。また、喉の奥を見る場合には、スプレーで鼻の中を麻酔してから行うので、多少の違和感がある程度で済みます。

(画像)当院の電子内視鏡システム

なお、検査結果から咽喉頭や食道の腫瘍が疑われる場合には、すみやかに精密検査が行える病院をご紹介します。

咽喉頭異常感症の治療

咽喉頭異常感症では、原因に合わせて様々な治療を行います。
ファイバースコープ検査などから、明らかに喉の違和感の原因に繋がるような疾患が見当たれば、その疾患の治療を優先的に行います。

薬物療法

原因に合わせ、次のようなお薬を使用します。

  • 抗不安薬・抗うつ薬
    精神的な問題から症状が現れているときに使用します。
  • 抗炎症剤、抗生物質
    原因がウイルス感染では抗炎症剤、細菌感染の場合のみ抗生物質を使用します。
  • 抗アレルギー薬
    喉頭アレルギーがある場合に使用します。
  • 消化管運動機能改善薬・制酸剤
    逆流性食道炎や咽喉頭逆流症などがある場合に使用します。

漢方薬治療

喉など身体には異常がなくとも、体調不良やストレスが神経過敏を引き起こし、「咽喉頭異常感症」に繋がります。
当院では、喉の異常感に対し、西洋医薬と併用して「漢方治療」を行っています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている医療用漢方製剤なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

咽喉頭異常感症で使われる主な漢方薬は以下の通りです。
※患者さんの体質によって、処方は異なります。

  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
    ストレスから喉の違和感(つかえている感じ)が生じている場合に効果的です。
  • 柴朴湯(さいぼくとう)
    小柴胡湯(しょうさいことう)と半夏厚朴湯を配合した漢方薬です。気分の落ち込み、喉粘膜の再生機能の低下などがある場合、免疫機能の強化や炎症を和らげたり、気分を落ち着かせたりする効果が期待できます。
  • 茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)
    茯苓飲(ぶくりょういん)と半夏厚朴湯を配合した漢方薬です。気分が落ち込んで、喉のつかえ感がある方に効果的です。
  • 麦門冬湯(ばくもんどうとう)
    喉の乾燥感があって、喉の違和感が生じている方に効果的です。
  • 麦味地黄丸(ばくみじおうがん)
    「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」に麦門冬(ばくもんどう)と五味子(ごみし)を加えた処方です。呼吸器系粘膜の潤いの不足により喉の乾燥・違和感が生じている場合に効果的です。
  • 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
    心理的ストレスの影響が大きく、自律神経が乱れている方に効果的です。
    甘めの味で、漢方薬が苦手な方でも飲みやすい薬です。

外科的手術

咽喉頭の異常感を引き起こしている疾患(扁桃肥大、がんなど)に対し、薬物療法を行っても症状が改善しない場合には、「外科的手術」を行います。

なお、がんなどの悪性腫瘍では、外科的手術のほか放射線治療、抗がん剤治療といった専門的治療が必要となります。
※外科的治療やがんの専門的治療が必要な場合には、対応する基幹病院などをご紹介します。

よくあるご質問

「咽喉頭異常感症」はどのくらいで治りますか?

通常、喉の異常感があっても、数時間~数日で軽快していくことが多いので、心配ありません。一方で、1週間以上、喉の異常が続いたり、食事で悪化したりする場合には、耳鼻咽喉科で詳しく喉の状態を調べてもらうと良いでしょう。耳鼻咽喉科では、生活習慣の改善と共に、薬物療法を1か月程度行います。
なお、「がんへの不安」から喉の異常感が引き起こされることがありますが、検査により「がんなど身体的な異常はない」と診断されると、安心から少しずつ症状の軽減がみられます。症状が続くようであれば、定期的に経過観察していきます。

咽喉頭異常感症の予防法はありますか?

次のようなことを意識して過ごすと良いでしょう。

規則正しい生活を送る

喉の炎症だけでなく、喉の異常感に繋がるような疾患の発症を防ぐためには、栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけましょう。

ストレスは適宜発散して、リラックスできる時間を作る

定期的に趣味の時間を設けるなど、ストレスを溜めない生活を送りましょう。
特に夕方から就寝までの夜の時間は、リラックスできる環境を作っておくことが大切です。

  • 37度~39度くらいのぬるめのお風呂に入って、副交感神経を優位にさせ、身体の緊張を和らげる
  • 音楽を聴く
  • 軽い読書
  • 香りを楽しむ(ラベンダー・カモミール・オレンジなど)
  • 軽いストレッチをする
  • ヨガをする

院長からのひとこと

「喉のつまりが取れない」「何か喉にあるような気がする」という悩みを抱えておられる方は結構多いです。一度、喉の状態をしっかりと見ることで、何もなければ安心していただけると思います。喉の違和感についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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