「喉頭(こうとう)がん」とは、喉仏の後ろ側にある声帯近くにできる悪性腫瘍「がん」です。
発症率は10万人に約3~4人の割合で、発症には喫煙・飲酒の影響が大きいとされています。60歳以上に発症のピークがあり、男女比は10:1と圧倒的に男性に多い疾患です。
喉頭がんの主な症状は声がれ、喉のいがらっぽさ、異物感などで、がんのできる場所によって最初に現れる症状や治療法などに違いがあります。
喫煙習慣があり、風邪を引いてもいないのに喉の症状が続く場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診して、早期発見に繋げましょう。当院までお気軽にご相談ください。
喉頭とは?
喉頭とは空気の通り道「気管」に繋がる入り口部分のことで、喉仏の裏側に位置します。
また、食べ物が通る際は気管に入らないよう閉じて蓋(ふた)の役割をする「喉頭蓋(こうとうがい)」や、声を出す器官でもある「声帯」を含みます。
喉頭は、声帯の部分を「声門(せいもん)」、その上部である「声門上部」、下部である「声門下部」という3つに分類されます。
喉頭がんの種類と症状
喉頭がんは「ヒト特有のがん」とされています。がん全体の中では発症頻度は高くありませんが、耳鼻咽喉科領域では最も多いがんです。
喉頭がんは「がん」のできる場所によって、「声門がん」「声門上がん(声門上がん)」「声門下部がん(声門下がん)」の3種類に分かれており、それぞれ初期症状が異なります。
声門がんの症状
声門がんは、声帯にできる「がん」で、喉頭がんのうち、約70%を占めます。
初期の小さな病変でも「声がれ」が現れるので、比較的気づきやすく、声門がんの約90%は早期がんでの発見です。首の腫れといったリンパ節転移は、比較的少ないです。
1か月以上、声がれが続いていたら、耳鼻咽喉科で調べてもらうことをおすすめします。
- 声がれ
低くなるガラガラ声、雑音が混じる声、息が漏れるような声などが最初に現れます。 - 血の混じった痰
がんから出血することにより、痰に血が混じる場合があります。 - (進行すると)息苦しさ
がんが大きくなって、声帯が狭くなると現れます。
声門上部がんの症状
喉頭がんの約25%を占める、声帯の上の方にできる「がん」です。
がんが小さい初期段階では風邪と似た症状が主症状となり、がん特有の症状はほとんどないため、受診が遅れる傾向があります。早期がんと診断されるのは約30%で、ほとんどは進行がんで見つかります。声門がんと比べて、頸部リンパ節転移が多い傾向です。
- 喉のいがらっぽさ
- 喉の異物感・違和感
一定の部位に異物感が現れます。 - 飲み込んだときに痛み
- 首のリンパ節の腫れ
病院受診のきっかけになりやすいです。
がんが進行して声門まで及ぶと、次のような症状が現れます。
- 声がれ
- 息苦しさ
声門下部がんの症状
声帯の下の方にできる「がん」で、喉頭がんのうち5%程度と稀です。
ある程度進行するまで症状が現れないので、声門がんと比べて進行した状態で発見されることが多い傾向です。
進行すると、次のような症状が現れます。
- 声がれ
- 息苦しさ
喉頭がんの原因
喉頭がんの主な原因は「喫煙」です。
喉頭がん患者さんの喫煙率は90%以上に上ります。しかし、20~30代の若い方の発症はほとんどなく、発症のピークは60代後半なので、長年の喫煙による刺激が発がんに深く影響を及ぼしていると考えられています。
また、過度な飲酒も「声門上がん」の発生に関与するとされています。
喉頭がんの検査・診断
電子ファイバースコープ(内視鏡)や喉頭鏡で喉頭の状態を確認し、異常が認められた場合には組織採取による生検によって確定診断を行います。
当院は「がん」の早期発見・予防に努めています。がんが見つかった際には、速やかに専門的治療をお受けいただけるよう連携の基幹病院をご紹介させていただきます。
問診・視診・触診
自覚症状や症状が現れた時期などについて、詳しくお伺いします。
また、喉の状態の視診、首のリンパ節の触診も併せて行います。
電子ファイバースコープ検査
耳鼻咽喉科用の「電子ファイバースコープ(内視鏡)」を使って、病変(腫瘍)の大きさや空気の通り道(気道)が狭くなっていないかなど、喉頭を詳しく観察します。
なお、耳鼻咽喉科のファイバースコープは、通常の胃カメラと比べて先端が細いので、痛みが少ない特徴があります。喉の奥を見る場合には、スプレーで鼻の中を麻酔してから行うので、多少の違和感がある程度で済み、1分程で終了します。
生検
ファイバースコープ検査などから「喉頭がん」が疑われる場合には、病変組織の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べます。
「がん」の場合は、その種類(組織型)なども診断します。
生検の結果、「喉頭がん」と診断された場合には、必要に応じて以下のような検査を行います。
※対応していない検査が必要と判断される場合には、基幹病院など対応病院をご紹介します。
- CT検査
CTとはコンピュータ断層撮影のことで、身体の断面図から、がんの深さ・広がり、リンパ節などへの転移を調べます。造影剤を使うと、周囲の臓器へのがんの浸潤具合などより詳しく確認することが可能です。 - MRI検査
MRIとは磁気共鳴画像のことで、強い磁石と電磁波を使って、人体を任意の断面(縦・横・斜め)で画像を表示できます。CT同様、がんの深さ・広がり、リンパ節転移を調べられ、CT検査と比べて、がん組織と正常組織の区別がより分かりやすくなっています。 - 超音波検査(エコー)
首にエコーを当てることで、主にリンパ節転移を調べます。 - PET-CT検査
放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射して行うCT検査です。ブドウ糖はがん細胞のエネルギー源となるため、全身のがん細胞の検出が可能となります。
CT・MRI検査とは異なる情報で、がんの広がり、リンパ節など他の臓器への転移有無を調べます。 - 腫瘍マーカー検査
がん診断の補助、診断後の経過観察、治療効果の測定などの目的で行います。
腫瘍マーカーとは、がんになると特有の物質(主にタンパク質)が作られることを利用して行う血液検査です。今のところ、喉頭がんでは診断や効果判定に使用できるような特定の腫瘍マーカーはありません。
喉頭がんのステージ(病期)分類
がんの進行度は、ステージ(病期)として分類されます。
一般的に、I期(ステージ1)・Ⅱ期(ステージ2)・Ⅲ期(ステージ3)・Ⅳ期(ステージ4)に分かれ、数字が大きい方がより進行した状態です。通常、Ⅰ期・Ⅱ期を「早期がん」、Ⅲ期・Ⅳ期を「進行がん」と評価します。
また、ステージはTNMカテゴリーとがんの浸潤具合(A~C)との組み合わせで決められます。喉頭がんでは0期~ⅣC期まであります。
- Tカテゴリー
原発腫瘍(がんが初めに発生した部位にあるがん)の広がり具合 - Nカテゴリー
頸部(首)のリンパ節に転移したがんの大きさと個数 - Mカテゴリー
がんの遠隔転移(がんができた場所から離れた臓器への転移)の有無
喉頭がんの治療
喉頭がん治療では「がん」の種類や進行度(病期)によって、標準治療(基本方針)が異なります。
ステージごとの標準治療は、次の通りです。
Ⅰ期・Ⅱ期の早期がん
できる限り喉頭を残して、発声機能を温存する治療法が選択されます。
- 放射線治療
- 喉頭温存手術
Ⅲ期・Ⅳ期の進行がん
進行がんでは、喉頭の温存治療でのがんコントロールは難しく、一般的に手術による喉頭摘出術が選択されることが多いです。
- 化学放射線治療
- 喉頭全摘出術
ただし、実際の治療内容については、ご本人の希望・生活環境、年齢、身体の状態などを踏まえた上で、患者さんと医師の話し合いにより選択されます。
がんの専門的治療は専門病院にて実施されるため、当院では連携している基幹病院などご紹介します。
放射線治療
放射線治療とは、放射線を患部に当てることで、がん細胞を破壊して、がんを消滅させたり小さくしたりする治療法です。
喉頭がんでは、がんが小さく、転移のないⅡ期までの早期がんの治療として行われることが多いです。1回10分程度の照射を30~40回程度行います(目安は週5日の治療を6~7週間)。
【メリット】喉頭を摘出しないので、発声機能を残せます。
【デメリット】がんの周囲にある正常細胞もダメージを受けることで副作用が起こる場合があります。
<起こり得る主な副作用>
倦怠感、食欲不振、声がれ、口内の乾燥、粘膜・皮膚の炎症による痛みなど
※副作用がみられた場合には、副作用の症状に合わせた治療も行います。
ただし、正常細胞もダメージを受けると言っても、がん細胞ほど放射線の影響を強く受けません。また、ダメージからの回復力は高いので、放射線を小分けにして照射して、正常細胞を回復させつつ、がん細胞を攻撃するなどの工夫がなされます。
化学放射線治療
化学放射線治療とは、放射線治療と薬物療法を併用して治癒を目指す治療法です。
がんが大きくなって、放射線治療だけではがんが消えにくい場合などに選択します。
化学放射線治療で使われる薬物療法では、細胞障害性抗がん薬(細胞増殖の一部を邪魔して、がん細胞を攻撃する薬)、分子標的薬(がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がんを攻撃する薬)が使われます。
【メリット】放射線治療だけで治療する場合と比べて、がんの進行を抑える効果や、喉頭を残せる可能性が高く、予後(病気の経過)の向上が期待できます。
【デメリット】放射線と薬物療法の両方の副作用が現れることがあります。
<起こり得る主な副作用>
声がれ、粘膜・皮膚の炎症による痛み、嚥下障害、骨髄抑制など
※副作用がみられた場合には、症状に合わせた治療を行います。
炭酸ガスレーザー手術
早期の喉頭がんに対して、炭酸ガスでがんを切除します。
通常、全身麻酔で行い、口から喉に喉頭鏡(金属製の筒)を入れて、顕微鏡で覗きながら、レーザーでがんを切除します。
【メリット】喉頭の全てまたは一部が残るので、発声機能を残せます。また、短い治療期間で済みます。
【デメリット】治療後の声の質が、放射線治療後と比べると少し悪くなります。
外科的手術
放射線治療では人体に安全に照射できる量が決まっているため、がんがなくなるまで照射を続けることはできません。
そのため、放射線治療でがんが取り切れない場合、放射線治療後に再発した場合、化学放射線治療では対応できない程がんが進行している場合には、外科的手術で取り除きます。
喉頭がんの外科的手術には、大きく2つに分けられます。
喉頭部分切除術(こうとうぶぶんせつじょじゅつ)
喉頭の全て、もしくは部分的に残した手術となるので「喉頭温存手術」とも呼ばれます。
喉頭には声を出す役割があるため、可能な限り「喉頭部分切除術」を選択します。
【メリット】発声機能を残せます。
【デメリット】術後飲み込む機能が悪くなって、誤って食べ物などが気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」を起こしやすくなります。
※手術の前後に、飲み込みのためのリハビリテーションの実施が勧められています。
手術には、以下のような術式があります。
- 経口的切除術・内視鏡切除
口から喉へ器具を挿入して切除する方法、または内視鏡を用いて切除する方法です。
【対象となるがん】声門がん・声門上部がん(がんが表面に留まっているもの) - 喉頭部分切除術・喉頭亜全摘術
頸部(首)を切開し、喉頭の一部分を残してがんを取り除く方法です。
喉頭を残す範囲によって術式が異なり、喉頭を半分以上切除すると「喉頭亜全摘術」となります。
【対象となるがん】経口術や内視鏡では切除しきれない、より進行したがん
喉頭全摘術(こうとうぜんてきじゅつ)
喉仏の骨ごと、喉頭を完全に取り除いて行う手術です。術後は、手術前のように自然な声を出すことができなくなります。
喉頭を完全に取り除くと、喉頭と繋がっていた咽頭(いんとう)が開いてしまうので、閉じる処置を行う同時に、呼吸のための穴(永久気管孔)を首にあけます。
【メリット】気道と食道の完全分離によって、誤嚥の心配がなくなります。
【デメリット】声を出せなくなります。
なお、リンパ節へ転移がある場合や予防として、リンパ節と周囲の組織ごと取り除く「頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)」を行うこともあります。
薬物療法
喉頭がんの薬物療法の目的には、種類あります。
- 治癒・機能の温存
化学放射線療法、導入化学療法(放射線治療や手術前に行われる)、術後化学放射線治療(手術後がんが取り切れない場合、再発の可能性がある場合に行われる)があります。
複数の細胞障害性抗がん薬を組み合わせた、分子標的薬を併用することがあります。 - 再発・転移がある場合の症状の緩和・QOL(生活の質)の維持・向上
細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを使用します。
緩和ケア・支持療法
緩和ケア・支持療法とは、がんによる症状や治療に伴う副作用・合併症・後遺症など肉体的つらさだけでなく、診断・治療に伴う精神的、社会的なつらさを軽減したり予防したりするための治療です。
また、支持療法の中には、がん・がん治療に伴う外見変化による苦痛を軽減するためのケア「アピアランスケア(外見ケア)」が含まれます。
治療に伴うつらさ・悩みがある場合には、医療者・カウンセラーなどに相談することも大切です。
リハビリテーション
がん治療による体への影響に対する回復力を高めて、残っている体の能力の維持・向上を図るためのリハビリテーションを実施します。
喉頭がんでは、次のようなリハビリテーションがあります。
発声のリハビリテーション
喉頭全摘出術をすると声帯を失いますが、声帯の代わりに他の部分を振動させて発声するためのリハビリテーションを行います。
- 食道発声
食道粘膜をゲップ(食道に吸い込んだ空気を吐き出すこと)で振動させて、声を出します。器具が必要ではないので、両手がつかえますが、習得には訓練が必要です。自然に近い声質になります。 - 電気式人工喉頭
電気で振動する器具(人工喉頭)を首に当てて、咽頭の粘膜を振動させて声を出します。片手は塞がりますが、習得が簡単です。機械的な音声となります。 - シャント発声
食道と気管を繋ぐ道を作り、肺から食道へ空気を送って発声する方法です。永久気管孔を閉塞させるために片手を使うので、話しながら両手を使う作業はできません。器具のメンテナンスが必要となりますが、食道発声と比べて、簡単に(10日程度で)習得できます。
(画像引用)発声のリハビリテーション|国立がん研究センターがん情報サービス - 飲み込みのリハビリテーション
喉頭がん治療をすると、喉頭の動きが悪くなったり、飲食物を食道へ振り分ける機能が低下したりすることで、誤嚥性肺炎を引き起こす恐れがあります。
誤嚥を防ぐために、治療前・治療中には舌や喉の筋力強化、治療後は段階に合わせた食事を食べるといった「飲みこみのリハビリテーション」の実施が勧められています。
よくあるご質問
どんな症状があれば、「喉頭がん」を疑って、病院を受診した方が良いのでしょうか?
次のような症状に一つでも当てはまれば、耳鼻咽喉科を受診して、喉の状態を調べてもらうことをおすすめします。
特に長年喫煙されている方や、過度な飲酒を続けている方は、そうでない方と比べて、喉頭がんの発症リスクが高いので、注意が必要です。
- 一カ月以上、声がれが治らない
- 一定の場所に異物感がある
- 食べ物を飲み込んだときに痛みがある
- 痰に血が混じる
- 呼吸が苦しい
- 首にしこりがあり、大きくなってきた
喉頭がんの予防法はありますか?
喉頭がんの主な原因となる「喫煙」「過度な飲酒」を避けることが、喉頭がんの発症・再発予防に繋がります。
また、がん全般の予防としては、次のようなものが有効であると分かっています。
- バランスの良い食事
- 適度な運動
- 適正な体形維持
- 感染予防
院長からのひとこと
長年喫煙やアルコールをよく飲む方の発癌リスクは高いため、もしできれば少しずつタバコを吸う本数やアルコールの摂取量を減らしていただいた方が、発癌リスクの回避につながります。
喉がおかしい感じがずっと続いている、声がだんだん出しづらくなってきた、などありましたら、念のため耳鼻科で喉の状態をチェックしていただくことをお勧めします。