「耳垢(耳あか)」は、耳の穴から鼓膜までの外耳道から出た分泌物や、空気中のほこり・古くなった皮膚などが混ざったものです。
耳垢というと、「耳掃除をして取るもの」といったイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、食事・おしゃべりなど顎(あご)を動かすことで、耳垢は外耳道から自然に外耳道の入り口へ出ていくようになっています。一方で、耳掃除を頻繁にやってしまうと、「外耳炎(がいじえん)」「外耳道湿疹(がいじどうしっしん)」という病気を引き起こすことがあります。また、耳垢が溜まり過ぎても「耳垢栓塞(じこうせんそく)」という病気になり、聞こえが悪くなる原因に繋がります。難聴は、認知症発症の最大のリスクと考えられていますので、特にご高齢の方は、耳垢の溜まり具合のチェックも兼ねて、年に1度は耳鼻咽喉科で耳の中を診てもらうことをおすすめします。

当院では、外耳道や鼓膜など耳の中を傷つけないよう内視鏡カメラで見ながら、丁寧に耳掃除(耳垢除去)を行っています。耳垢除去も医療行為のひとつです。
赤ちゃんからご高齢者の方まで耳垢のことでお困りの場合には、お気軽にご相談ください。

耳垢とは?

耳垢は、医学的には「じこう」と読みます。耳垢は、耳の入り口~鼓膜までの外耳道(約3.5cm)にある耳垢腺(じこうせん)や皮脂腺から出た分泌物と、剥がれ落ちた角化表皮細胞(かくかひょうひさいぼう)、髪の毛、ほこりなどが混じったものです。なお、耳垢腺は外耳道の皮膚に存在する汗腺の一種「アポクリン汗腺」で、外耳道の外側1/3(約1cm)の部分にしか存在しないため、基本的に耳垢も外耳道の外側1cmにのみ付着します。

外耳道の皮膚表面は、線毛(せんもう)という細かい毛により異物を外に出す仕組みがあり、話す・食べるなどの顎を動かす動作によって、自然に耳垢はベルトコンベヤーのように外耳道の入り口の方へと移動していきます(自浄作用)。
ただし、耳垢が湿っている人、外耳道炎や外耳道骨腫になっている人は自浄作用が十分に働かず、溜まりやすい傾向があります。

(図)耳垢のできる場所

耳垢の役割

耳垢は耳から出た「不要なもの」ではありますが、一方で「耳を保護する」側面も併せ持っています。

  • 細菌・カビなどが外耳道で繁殖するのを防ぐ
  • 虫などの侵入を防ぐ
    耳垢には苦みがあり、防虫効果があると考えられています。

耳垢の種類

耳垢は、乾性/湿性の2種類に分けられ、人によって異なります。乾性・湿性どちらでも、機能的な違いはありません。
近年、この乾性/湿性の区別は、遺伝子(16番染色体上のABCC11遺伝子)によって決定されていると長崎大学の研究グループより報告されました*1
*1(参考)科学技術振興機構報 第248号|科学技術振興機構(JST)
https://www.jst.go.jp/pr/info/info248/index.html

  • 乾性耳垢(かんせいじこう)
    白色~黄色でカサカサ乾燥して、うろこのような耳垢。日本人の約70%~80%を占めます。
  • 湿性耳垢(しっせいじこう)
    黄色~茶褐色でベトベトした飴状の湿った耳垢。西欧人の約9割を占めます。乾性耳垢の方と比べて、耳垢腺の数が多いことが分かっています。

耳垢に関係する病気

耳垢に関係する代表的な病気として、「耳垢栓塞」「外耳道炎」があります。

耳垢栓塞

読んで字のごとく、耳垢が大量に溜まって大きな塊(栓)となり、外耳道を塞いだ状態となる病気です。小さなお子さんや耳垢を排出する力が弱くなった高齢者に多くみられます。
耳垢で栓をしてしまうので、聞こえに影響を及ぼしますが、聞こえが悪くなっても「年のせい」と思い込み、溜まった耳垢を放置されているご高齢の方は少なくありません。
また、プール・お風呂などで耳に水が入ったときに、耳垢が膨張して耳に詰まることにより、急に聞こえが悪くなる場合があります。
外耳道を塞ぐほどの耳垢は、ご自身で取ることはできませんので、耳鼻咽喉科で取るようにしましょう。

【症状】

  • 聞こえが悪くなる(難聴)
  • 耳の閉そく感(詰まった感じ)
  • 自声強調(自分の声が大きく響いて聞こえる)

ほかに、喉の違和感、胃の不快感などが現れるケースもあります。

【原因】

  • 耳垢の溜まり過ぎ
  • 綿棒などで奥までいじりすぎて、耳垢を奥に押し込んでしまう

【治療法】

耳の中を観察しながら、耳垢を除去します。耳垢が大きな塊となっている、または外耳道へ強く付着しているケースでは、「耳垢水」で耳垢をふやかしてから、取り出します(痛みはありません)。
※大量に耳垢が溜まっているケースでは、両耳同時に処置をすると、処置後に一時的なふらつき・めまいが起こることがあるので、片耳ずつ処置することがあります。

外耳道炎(外耳炎)・外耳道湿疹

外耳道炎は外耳道に炎症が起こり、外耳道湿疹では外耳道に湿疹ができます。
外耳道の皮下組織は薄く、外からの刺激に弱い特徴を持ちます。
そのため、耳掃除をやり過ぎてしまうと、皮膚が剥けてしまい、荒れて湿疹ができることがあります。また、イヤホン装着も小さな傷を生みやすく、長時間使用することで外耳道が高温多湿となり、細菌の繁殖を招きます。さらに、イヤホンに付いた汚れは細菌感染のきっかけとなりますので、使用後は拭き取り、清潔に管理しましょう。

(画像引用)外耳炎|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=20

【症状】

  • 耳のかゆみ
    かいてしまうことで外耳道の炎症が悪化します。湿疹ができると、かゆみが増すので、さらに耳掃除をして、より炎症を悪化させる悪循環に陥りやすいです。
    アレルギー体質の人は、シャンプーなどの刺激が原因となるケースもあります。
  • 耳の痛み
    耳たぶを引っ張る、押すと、痛みが強くなります。
  • 耳垂れ(みみだれ)
    白~黄色の液体(膿・分泌物)が出てきます。
  • 聞こえが悪くなる(難聴)
    外耳道の腫れや耳垢の詰まりによって、聞こえが悪くなります。
  • 耳鳴り
    実際には周りで何も音がしていないのにもかかわらず、耳の中で「キーン」「ピー」という雑音が聞こえることがあります。
  • 耳の閉そく感
    耳が詰まった感じになることがあります。

【原因】

耳掃除(耳かき)や指でひっかくことで傷ができ、そこへ細菌が侵入して発症します。
傷があるときのプール、長時間のイヤホンの使用は、細菌感染を招きやすいので要注意です。
主な原因菌は黄色ブドウ球菌ですが、まれに真菌(カビ)が原因となって、難治性の「外耳道真菌症」を発症することもあります。

【治療法】

外耳炎治療のポイントは、「薬を塗るとき以外、耳を触らないこと」です。

  • 分泌物の除去や消毒
    外耳道をきれいに掃除するだけで、聞こえにくさが解消することもよくあります。
  • 薬物療法
    まずは抗生物質(抗菌剤)の点耳薬(耳に入れるお薬)を使用します。炎症がひどい場合には、ステロイドの点耳薬・軟膏を処方します。また、抗アレルギー薬・抗ヒスタミン剤・抗不安剤・鎮痛剤などの内服薬を使うこともあります。

耳垢の検査

耳垢が溜まっている、あるいは気になっている場合には、次のような検査を行います。

問診

自覚症状がある場合には、症状や発症時期など詳しくお伺いします。

内視鏡検査

耳鏡や内視鏡カメラを使って、外耳道・鼓膜の状態を丁寧に確認します。
内視鏡検査は数秒で終わり、痛みはほとんどありません。

(画像)当院で使用している電子内視鏡システム

耳垢の除去方法

内視鏡や顕微鏡で外耳道を確認しながら、耳用の特殊な鉗子(はさみのような形をしたつまむ器具)でつかんで取ったり、掃除機のような吸引器具で吸い出したりします。
耳垢が固まっている場合には、ご自宅で点耳薬を使用していただいてから処置することもあります。

よくある質問

耳掃除だけで、受診してもよいのでしょうか?

耳垢除去は、医療行為のひとつですので、お気兼ねなくご来院ください。
赤ちゃんや小さなお子さんの耳は小さい上、さらにお子さんが暴れることもあるため、ご自宅で耳掃除をするのは、意外と大変です。 
また、大人や高齢者の方でも、耳掃除で気づかぬうちに耳垢を奥に押し込んでいたり、無理に取ろうとしてしまったりして、外耳道を傷つけるケースがよくあります。
耳掃除は無理をせず、当院にお任せください。
耳掃除での通院の場合、1か月~3か月に1度程度となります(個人差あり)。

自宅で行う「耳掃除」の正しいやり方を教えてください。

耳掃除が日課になっている人もいらっしゃるかもしれませんが、実は耳掃除のやり過ぎはNG行為です。 ご自宅での耳掃除のポイントは、「たまに」「よく見える場所だけ」行うことです。 ご自分で難しい場合には、お気軽にご来院ください。

  • ご自宅での耳掃除は、月1回~2回程度で十分
    耳掃除をすると、気持ちが良いですよね。これは、耳の中に快感を得られる迷走神経(めいそうしんけい)があるためです。しかし、「気持ちいから」「お風呂上りにやらないと気がすまなくなっている」などの理由で毎日やってしまうと、「やり過ぎ」です。外耳道に傷が付いて、外耳道炎を発症してしまいます。
  • 掃除範囲は、耳の入り口から1cmくらいに留める
    耳垢は耳の入り口から1cmくらいの浅い場所に溜まります。綿棒で優しくぬぐいましょう。また、入浴後に軽くタオルで拭く程度でも、耳垢は除去できます。

耳鼻咽喉科で耳掃除を行うメリットは何ですか?

外耳道を傷つけずに耳垢を除去できるだけでなく、一緒に鼓膜・外耳道などの状態も確認するので、耳の病気の早期発見に繋がります。
また、症状が現れている場合には、ひどくなる前に治療を開始することで、早期治癒に繋がります。

院長からひとこと

耳垢は取らなくて良い、と思っておられる方は大変多いです。耳には「自浄作用」という耳垢が耳の外へと運ばれる作用がある上、しょっちゅう耳を触ると逆に外耳炎を引き起こすことがあります。ただし、長期にわたって耳垢を放置しておくとどんどん溜まり、かつ固くなって外耳道に固着します。固まった耳垢は取りにくくなり、取るときに痛くなります。特に小さなお子さんは耳の穴も小さく、痛いことも嫌いなので、外来での処置が大変になります。また、耳垢が充満していたために外耳道の皮膚が炎症を起こしているときもあります。もしかして耳垢が溜まっているのでは?と心配になったときは、いつでもお気軽にご相談ください。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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