風邪・副鼻腔炎が長引いたときや、急激な体重減少があった後に「耳が詰まった感じ」「自分の声が大きく聞こえる」「自分の呼吸音が聞こえる」といった症状が現れて、お困りではありませんか?
もしかしたら、その症状は「耳管機能不全症(じかんきのうふぜんしょう)」かもしれません。
耳管機能不全症とは、耳と鼻(上咽頭)を繋ぐ管である「耳管」が狭い状態、または開きっぱなしの状態となることで、「耳の閉そく感」など様々な症状が現れる疾患です。耳管機能の悪化は、痛くない中耳炎の「滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)」の発症に繋がったり、不快症状が続くことで「うつ状態」を引き起こしたりする可能性もあります。
耳に気になる症状が現れましたら、お気軽に当院までご相談ください。

耳管とは?

耳管の役割

耳と鼻は「耳管」と呼ばれる細い管で繋がっています。普段、耳管は閉じていて、唾を飲み込む・あくびをしたときなど、必要なときに一瞬だけ開いて、主に耳の内の圧力を調整する役割をしています。
ほかに、中耳腔内の分泌物や異物を鼻腔へ排出する役割や、鼻咽腔から細菌・異物が中耳腔へ侵入するのを防ぐ役割、声・呼吸音が耳に直接響くのを抑える役割もあります。

(図)耳の構造

耳管機能不全症とは?

耳管機能不全とは、耳管が持つ「気圧」を調節する機能が悪くなった状態のことです。
耳管の気圧調整機能が低下する原因は大きく2つに分かれ、それぞれ病名が異なります。

  • 耳管狭窄症
    耳管が狭くなった状態
  • 耳管開放症
    耳管が閉じ切らず、開いている時間が長い/開きっぱなしになった状態

耳管狭窄症の特徴(症状・原因)

耳管狭窄症の症状

耳管が狭くなり、開きづらくなることで、次のような症状が現れます。

  • 耳の閉そく感・こもる感じ
    耳に水が入ったような感じがします。
  • 聞こえが悪くなる(難聴)
  • 自分の話す声や呼吸の音が響いて聞こえる
  • 耳の痛み

飛行機やエレベーターで高いところに行くと耳が詰まったり痛くなったりする「航空性中耳炎」は、軽い耳管狭窄症と考えられています。

耳管狭窄症の原因

耳管狭窄症の直接原因は、耳管や周囲に炎症・腫れが起こり、耳管が狭くなることです。
耳管狭窄が起こる主な要因には、次のようなものがあります。

  • 耳管の炎症
    風邪・副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎などが炎症の要因となります。
  • アデノイド肥大や耳管周辺の腫瘍
    アデノイド(咽頭扁桃)は耳管の近くにあります。アデノイドが大きい場合や耳管周辺に腫瘍がある場合は耳管を圧迫します。
  • 胃食道逆流症(逆流性食道炎)
    近年、胃酸の逆流が耳管機能のほか、鼻・喉・耳の様々な疾患に関係していることが分かってきました。

また、耳管狭窄症は聞こえが悪くなる「滲出性中耳炎」を引き起こす要因のひとつですので、早めの治療が望まれます。

耳管開放症の症状・原因

鼻の奥と耳をつなぐ耳管(じかん)が閉まりにくい状態「耳管開放症」は、30代~40代の女性に特に多く、男性なら20代~30代・高齢者に多い特徴があります。

耳管開放症の症状

耳管開放症の症状は、立っている状態だと現れ、寝ているときには異常を感じません。
また、軽症から重症まで個人差があります。

  • 耳の閉そく感・こもる感じ
  • 自分の話す声が大きく聞こえる(自声強聴)
  • 呼吸音が大きく響く(自己呼吸音聴取)
    呼吸音がザーザー・ゴーゴーと聞こえます。
  • 鼻すすりの動作で、一時的に症状が改善する(鼻すすり型耳管開放症)
    不快症状を抑えるために「鼻すすり」を繰り返すようになると、「滲出性中耳炎」や鼓膜が凹んで中耳の壁に癒着する「癒着性中耳炎(ゆちゃくせいちゅうじえん)」、鼓膜の一部が中耳に入り込んで老廃物の塊を形成し、中耳の内の骨を破壊していく「真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)」などに繋がる危険性があります。

ほかに、めまい、肩こり、頭痛・目の違和感、うつ状態などが現れることもあります。

<耳管狭窄症との違い>

耳管狭窄症と似た症状が現れますが、耳管開放症では前かがみや仰向けの体勢になると、症状が一時的に軽減する特徴があります。

耳管開放症の原因

耳管開放症の原因は様々です。主な発症要因には次のようなものがあります。

  • 急激な体重減少
    過度なダイエットや手術後に、耳管周囲の支持組織(主に脂肪)の減少によって発症することが多いです。
  • ストレス
    自律神経の乱れから耳管周囲の血液循環を悪化させます。
  • 妊娠・ピルの使用
    ホルモンバランスの影響でも耳管の緩みに繋がります。通常、妊娠が原因の場合には、出産すると自然に症状は改善します。
  • 激しい運動による脱水症状
    脱水症状があると、症状が悪化しやすいです。
  • 人工透析
  • 中耳炎・顎関節症・ホルモンの異常・末しょう循環障害

耳管機能不全症の検査・診断

耳管機能不全症では、問診・聴力検査・耳管機能検査から聞こえや耳管の状態を調べ、診断します。
また、耳管機能不全症と同じような症状を起こす他の病気との鑑別のため、必要に応じて様々な検査を行うことがあります。

問診・視診

自覚症状・発症時期・既往症など詳しくお伺いします。
また、耳の中の状態を電子スコープや内視鏡カメラで詳しく確認します。大人の耳管狭窄症では、稀に鼻の奥に腫瘍ができていることがあります。なお、電子スコープ・内視鏡カメラによる検査では痛みはなく、少しくすぐったい感じがして、数秒で終わります。

(画像)当院で使用している電子内視鏡システム

聴力検査(標準純音聴力検査)

どのくらい小さな音が聞こえるか、「気導聴力検査」「骨導聴力検査」の2種類の検査から聞こえの程度を確認します。

  • 気導聴力
    音の伝達経路に障害があるかどうかを確認する検査。
  • 骨導聴力
    耳の後ろの骨の出っ張りに振動を当てて、内耳・その先の経路に障害があるかを調べる検査。

ティンパノメトリー検査

耳の外側から鼓膜に圧力をかけて、鼓膜の動きを確認する検査です。
耳管狭窄症の診断が可能です。

耳管機能検査

片方の耳に耳栓をして、鼻の片側にセンサーを当てながら、耳抜き・あくび・つばを飲み込む動作で耳管が開く様子を音として測定します。正常に耳管が働いているかを確認する検査です。検査は1分未満なので、お子さんでも検査可能です。

(画像)当院で使用している耳管機能検査装置

そのほか、めまいを伴う場合には目の動きを調べる「眼振検査」といった平衡機能検査、聴神経腫瘍の確認に「MRI検査」などを行うことがあります。
※必要に応じて、基幹病院をご紹介させていただきます。

耳管機能不全症の治療法

耳管機能不全症の治療は、症状に合わせた治療を行います。

耳管狭窄症の治療

耳管狭窄症では、原因となっている鼻・喉・耳の炎症に対する治療を行いつつ、耳管に空気を送り込む治療を行います。

  • 耳管通気療法
    鼻から耳に空気を送る「耳管通気療法」を定期的に行います。
  • 薬物療法
    風邪・副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎など、鼻や喉・耳の炎症が原因の場合には、炎症を抑える治療を併せて行います。
    • 抗生物質
    • 抗炎症剤
    • 抗ヒスタミン剤
    • ネブライザーによる薬剤の吸入
      お薬を霧状にして、鼻や喉などから吸入して、薬剤を患部へ直接届けます。
  • 鼓膜チューブ留置術
    難治性の場合には手術を検討します。

耳管開放症の治療

耳管開放症では、原因に合わせた生活指導や薬物療法を行います。

  • 生活習慣の指導
    ストレス・体重減少の回避、こまめな水分補給、血流を良くする運動など、生活習慣の見直しを図ります。軽症の場合には、生活の見直しだけで治癒が期待できます。また、鼻すすりが癖になっている方は、すすらないよう意識しましょう。
  • 薬物療法
    • ATP製剤(血管拡張作用のある薬)
    • 漢方薬
      当院では耳管開放症治療の選択肢のひとつとして「漢方治療」を併用することがあります。耳管開放症に対しては加味帰脾湯(かみきひとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などを処方しています。処方する漢方薬は厚生労働省から認可されている医療用漢方製剤なので、健康保険が適用されます。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。
  • その他の処置
    「生理食塩水の点鼻」により、症状の改善がみられることがあります。
  • 外科的手術
    お薬や生活習慣の改善を行っても効果が不十分な難治例では、外科的手術を検討することがあります。また、鼓膜に換気用のチューブを置いておく「鼓膜換気チューブ留置術」も効果的です。
(図)鼓膜換気チューブ留置術イメージ

院長からひとこと

「耳で自分の呼吸音が聞こえて治らない」「常に詰まっている感じがする」など、耳管機能不全による違和感はよくある症状です。また、最近では逆流性食道炎による上咽頭炎やそれに伴う耳管機能不全の方も多いように思います。耳の違和感で気になる方は、いつでもご相談ください。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
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