「喉が痛い」「咳が出る」といった症状が現れたら、「喉の風邪かな?」と思う方が多いかもしれません。喉風邪の主な原因はウイルス感染です。「喉風邪」と言っても、喉の上方の炎症なら「咽頭炎(いんとうえん)」、喉の下の方で声帯を含む部分が炎症すれば「喉頭炎(こうとうえん)」と、炎症の起こる部位によって病名は細かく分類されており、現れる症状や原因、治療法には若干違いがあります。
私たちが外から確認することができる「喉」は、本来の喉の一部分であり、見えない部分に炎症が起こることもあります。耳鼻咽喉科では、外から見えないような喉の奥でも、電子ファイバースコープ(内視鏡)などを用いて詳しく診察し、適切な治療に繋げることが可能です。

通常、咽頭炎や喉頭炎では、薬物療法と安静により約5日~7日で治癒していきます。
しかし、1週間経っても症状が改善していかないときや、喉の腫れが強くなって息苦しさを伴う場合には、すみやかに耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
特に、高齢者や糖尿病などの基礎疾患がある方では、重症化しやすい傾向がありますので注意が必要です。お気軽に当院までご相談ください。

喉とは?

喉とは、医学的には「咽喉(いんこう)」と呼び、呼吸と食べ物の通り道「咽頭」と空気の通り道「喉頭」から構成されています。

咽頭

上から「上咽頭」「中咽頭」「下咽頭」に細分化されています。

  • 上咽頭(じょういんとう)

鼻の奥の突き当りで、鼻からの空気の通り道。アデノイド(咽頭扁桃)が含まれます。

  • 中咽頭(ちゅういんとう)

口を開けたときに見える、いわゆる「喉」です。扁桃(口蓋扁桃)や舌の付け根部分、口蓋垂(のどちんこ)などが含まれます。

  • 下咽頭(かいんとう)

空気の通り道「気管」と食べ物の通り道「食道」が分かれる部分の食道側で、喉仏(のどぼとけ)の裏あたりにあります。

喉頭

喉仏があり、「気管」に繋がる部位です。また、喉頭には声帯も含まれ、声帯が振動することで声を発することができるのです。

(図)咽頭・喉頭の位置

咽頭炎の症状と原因

咽頭は、口・鼻からの呼吸および食事を通じて、ウイルスや細菌感染を起こしやすい部位です。咽頭炎には急性炎症の「急性咽頭炎」と、炎症が慢性化した「慢性咽頭炎」があります。
※症状の現れ方・程度には個人差があります。

急性咽頭炎の症状と原因

症状

  • 喉の痛み
    炎症が進行していくにつれ、飲み込むときに嚥下痛(えんげつう)が増していきます。
  • 喉がヒリヒリする
  • 発熱
  • 倦怠感(だるい感じ)
  • 咳が出る
  • 耳が痛い

原因

風邪と同様に、主にアデノウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキーウイルスなどのウイルス感染が原因となります。
また、ウイルス感染後に細菌による二次感染を起こすケースや、最初から細菌感染によって発症するケースもあります。

(画像引用)咽頭炎|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=22

慢性咽頭炎の症状と原因

症状

  • 喉の違和感(乾燥した感じ・詰まった感じ)
  • 咳症状
  • 喉の軽い痛み
  • 少し声がかすれる

原因

咽頭炎が慢性化する要因は様々です。ただし、検査しても原因不明な場合があります。

  • ウイルス・細菌感染(急性咽頭炎の持続)
  • 身体の冷え(特に首)
  • ストレス・疲労
  • 喫煙
  • 飲酒
  • 大気汚染(排気ガス・黄砂・花粉・ハウスダスト・PM2.5など)
  • 空気の乾燥
  • 口呼吸
  • 鼻炎・副鼻腔炎による後鼻漏(こうびろう
    鼻の奥から鼻水が喉に落ちることを後鼻漏と呼びます。
  • 逆流性食道炎

喉頭炎の症状と原因

空気の通り道である「喉頭」の炎症は悪化すると、「呼吸苦」を伴うことがあるため、注意が必要です。咽頭炎同様に、急に発症する「急性喉頭炎」と、炎症が慢性化した「慢性喉頭炎」に分類されます。
※症状の現れ方・程度には個人差があります。

急性喉頭炎の症状と原因

症状

  • 喉の痛み
  • 声がかすれる、声を出しにくい
  • 喉がヒリヒリする
  • 咳が続く
  • 痰が出る
  • 発熱

慢性喉頭炎の症状と原因

・症状

  • 声がれ
  • 喉の違和感(喉の乾燥感・イガイガする感じ)
  • 咳が出る
  • 痰が出る

原因

ライノウイルス、インフルエンザウイルスなどの風邪菌によって上気道炎(咽頭・喉頭の炎症)を繰り返すことが主な原因となります。稀に細菌感染が原因となる場合もあります。
ウイルス感染のほかには、気管支炎、声の使い過ぎ、ハウスダスト・花粉症などのアレルギー、喫煙、刺激性のガスの吸引、頸部のポリープが発症要因となる場合があります。
さらに、空気の乾燥も炎症要因となるので、冬などエアコンの使用時期には注意が必要です。

注意したい咽頭炎・喉頭炎

咽頭炎・喉頭炎の中には、注意が必要な疾患があります。
特に、喉頭炎による炎症が悪化して、喉頭の腫れが強くなると呼吸困難などの症状が出て、命の危険を伴うことがあります。症状の悪化がみられたら、早めに医療機関を受診しましょう。
※重症時など緊急を要する場合には、対応可能な医療機関をご紹介させていただきます。

慢性上咽頭炎(まんせいじょういんとうえん)

上咽頭とは鼻の奥にあり、喉の一番上に位置しています。急性期の上咽頭炎では喉の痛みが現れますが、痛みが治まった後も上咽頭の炎症が長引くと、「鼻づまり」や鼻水が喉に落ちてくる「後鼻漏(こうびろう)」、「喉の違和感」といった症状が残る「慢性上咽頭炎」になります。
慢性上咽頭炎は鼻・喉に関する不調のほか、上咽頭の炎症が「病巣」となってIgA腎症・関節炎・皮膚炎などの全身疾患や、めまいなど自律神経の乱れに伴う症状に関連することが分かっています。慢性上咽頭炎の治療では、病的な上咽頭に塩化亜鉛液(消炎剤)を湿らせた綿棒で擦りつける治療「Bスポット療法(EAT・上咽頭擦過療法)」が行われています。処置の初期は出血し、痛みも強く現れますが、炎症が改善していくにつれて、痛み・出血は軽減していきます。
当院でも実施しておりますので、お気軽にご相談ください。
Bスポット治療の詳細はこちら

急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)

喉頭蓋とは喉頭のふたの部分です。空気が通るときは開いていて、食べ物・飲み物が通るときには閉じて、喉頭や気管に入らないように防ぐ役割をしています。喉頭蓋炎は喉頭蓋をはじめとして、喉頭が強く腫れることにより喉の激しい痛み、呼吸困難を伴います。軽症でも短時間で進行し、窒息する可能性があり、一般的な対症療法では効果が不十分な場合があるため、すみやかに受診しましょう。

(画像引用)急性喉頭蓋炎|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=23

急性声門下喉頭炎(きゅうせいせいもんかこうとうえん)

風邪から移行して発症します。別名「クループ症候群」とも呼ばれ、ピークは2歳前後で5歳くらいまでの乳幼児に多くみられます。声門下は気道の中で一番狭い部位となるため、炎症によりむくむと、さらに狭くなって「ケンケン」と犬の鳴き声のように聞こえる咳や、「ヒューヒュー」と狭い気道を通る音がした後に肩呼吸(呼吸困難が強くなって、肩を上下して呼吸する状態)・陥没呼吸(呼吸するときに胸が凹む状態)が現れるようになります。声門下部の腫れが強くなると、呼吸困難で窒息する恐れがあるので、すみやかに医療機関を受診しましょう。なお、呼吸苦がある場合には入院治療が必要となります。

(図)上咽頭と声門の位置

咽頭炎・喉頭炎の検査・診断法

咽頭炎・喉頭炎では、一般的に臨床症状や喉の状態を問診・視診などから確認して、総合的に診断します。
必要に応じて、ウイルス・細菌の迅速検査、血液検査、細菌培養検査などを行うことがあります。

問診・視診・触診

自覚症状や発症時期、咽頭炎・喉頭炎の再発などについて、詳しくお伺いします。
また、赤み・腫れ・膿など喉の状態の視診、首のリンパ節の触診を行います。
喉の奥にある喉頭は、小さな鏡の付いた「喉頭鏡(こうとうきょう)」や電子ファイバースコープ(内視鏡)で観察することがあります。

電子ファイバースコープ検査

喉の奥の状態を詳しく観察するために、電子ファイバースコープ(内視鏡)を使って診断します。
耳鼻咽喉科で使用するファイバースコープは、通常の胃カメラと比べて先端が細いので、痛みが少ない特徴があります。また、喉の奥を見る場合には、スプレーで鼻の中を麻酔してから行うので、多少の違和感がある程度で済み、1分程で終了します。


(画像)当院の電子内視鏡システム

そのほか、必要に応じて、以下のような検査を行う場合があります。

・細菌検査
患者さんの年齢や症状などから、溶連菌感染が疑われる場合に迅速検査を行います。綿棒で喉をこするだけで調べられ、5〜10分程度で結果が分かります。インフルエンザ検査など、他の検査との同時実施が可能です。
また、症状が長引いているときには、効果のある抗生物質を調べるために、細菌培養検査を行って菌の種類を特定することがあります。

・血液検査
白血球の増加や炎症の程度を見るCRP値などを確認します。また、可能性のある病気を調べます。
※検査結果は後日となります。

咽頭炎・喉頭炎の治療

急性咽頭炎・喉頭炎の治療の基本は「薬物療法」と「十分な休養」です。
咽頭炎・喉頭炎は安静にしていれば自然に治癒していきますが、重症化すると窒息リスクが高まったり、入院治療が必要となったりすることがあります。1週間経っても症状が良くなっていかない場合には、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
特に乳幼児・高齢者・基礎疾患のある方では、細菌による二次感染を起こしやすいので、症状の悪化時はすみやかにご受診ください。

安静

声と身体を十分に休めることが、何より大切です。
十分な睡眠と、水分・栄養をしっかり取ることで免疫の働きを助け、炎症の回復を促します。

薬物療法

咽頭炎・喉頭炎では、原因や症状に合わせて治療法を選択します。
原因がウイルスであれば、薬で症状を和らげる「対症療法」、細菌であれば「抗菌剤+対症療法」にて治療を行います。通常内服薬での処方となりますが、重症時や喉の痛みが強く食事が取れないときでは点滴を行うことがあります。また、咽頭痛が強い場合は桔梗湯、関節痛や腰痛、初期の感冒様症状に伴う倦怠感や発熱などには葛根湯・麻黄湯、長引く咳には麦門冬湯など、漢方薬も使用して治療することがあります。

ウイルス性の場合
咽頭炎・喉頭炎の原因の多くは、ウイルス性です。

  • 喉の消毒(うがい薬)
  • 解熱剤
  • 消炎鎮痛剤(非ステロイド)
  • ネブライザー治療
    霧状の薬剤を吸引することで患部に直接薬剤が届きます。

細菌性の場合

  • 抗菌剤(抗生物質ペニシリン系)
    <抗菌剤(抗生物質)の服用ポイント>
    抗生物質を服用すると、1日~2日で熱は下がり、つらい症状も3~4日で緩和していきます。ただし、その段階では身体の中の細菌は死滅しておらず、体内に残っています。「体調が回復したから治った」と自己判断して服用を中止すると、耐性菌(薬剤に耐性を持つ菌)を生んだり、別の重篤な病気を引き起こしたりする恐れがあり、大変危険です。
    必ず処方された抗生物質は、最後までしっかり飲み切りましょう。
  • 喉の消毒(うがい薬)
  • 解熱消炎鎮痛剤や消炎剤
  • ネブライザー治療

咽頭炎・喉頭炎の予防法

咽頭炎・喉頭炎の原因は主にウイルス感染なので、風邪と同じく、疲労・ストレスなどをきっかけとする免疫力の低下や、乾燥・喫煙などによる喉粘膜のバリア機能の低下を避けることが大事です。

免疫力の低下予防

  • こまめにうがい・手洗いをする
    感染症予防の基本です。風邪を引かないように注意しましょう。
  • 規則正しい生活を送る
    過労・睡眠不足を避けて、栄養バランスの取れた食事やストレスの発散で免疫力の低下を防ぎましょう。
  • 定期的な部屋の換気
    締めきった部屋ではウイルス・細菌が停滞し続けます。定期的に窓を開けて、新鮮な空気を取り入れましょう。ご家族に風邪を引いている方がいる場合には、特に意識して行うと良いでしょう。

喉の乾燥予防

  • 部屋を加湿する
    冬場やエアコンの使用によって部屋が乾燥しているときは、加湿器などを使用して、室内の湿度を40%~70%にすると、喉の乾燥予防に有効です。
    また、洗濯物の部屋干しでも保湿効果が得られます。
  • 禁煙
    喫煙による喉への慢性的な刺激は、粘膜のバリア機能の低下を招き、喉頭炎の発症要因となります。
  • マスクをする
    マスクの有効性は外からのウイルス・菌の侵入を抑えるだけではありません。マスクをすることで、マスク内に自分の吐いた息がこもり、その湿った空気を吸うので喉の乾燥予防に繋がります。
  • こまめに水分を摂る
    定期的な水分補給は侵入した病原体の排出には、が一役買っています。スムーズな排出には、喉粘膜にある線毛(異物を体外に排出する役割)の潤いが必要となります。


(図)咽頭炎・喉頭炎の感染予防対策

院長からひとこと

最近は秋冬に限らずインフルエンザウイルスに罹患される方もいらっしゃいます。
年間を通して、帰宅したらうがい・手洗いをして、喉の乾燥予防にこまめに水分を摂るなどして、風邪のウイルスをもらわないように気をつけましょう。人混みや交通機関、医療機関においては、マスクの装着も効果的です。

記事執筆者

木戸みみ・はな・のどクリニック
院長 木戸 茉莉子

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 補聴器相談医
  • 身体障害者福祉法指定医
PAGE TOP